最初に言っておくと、この作品は「仲良く謎解き」ではありません。むしろ逆。別居中の夫婦が、同じ殺人事件を追いながら、相手を犯人かもしれないと疑う。いや、疑うどころか、疑う気満々で動く。人間関係の泥が、事件の血より生々しい。そういうタイプのNetflixリミテッドシリーズです。
タイトルは「彼の真実、彼女の嘘」。言葉だけならロマンチックな香りがするのに、見始めるとすぐ分かる。これは香りではなく、焦げ。真実と嘘が混ざると、心は簡単に煙たくなる。しかも煙が目にしみる。目薬を差しても消えないやつです。
舞台はアメリカ南部の田舎町。そこに戻ってきたニュースレポーターのアナと、現場を仕切る刑事のジャック。二人は夫婦。別居中。ここまででもう勝ち筋が見えている人、いるでしょう。ええ、事件より先に夫婦の地雷が爆発しそうだ、と。
作品のざっくり概要 夫は刑事 妻は取材者 同じ場所で別の戦い
Netflixの公式あらすじは潔い。別居している夫と妻が、刑事とニュースレポーターという立場から殺人事件を追う。互いを疑いながら、相手より早く事件を解決しようと奔走する。これだけ。なのに、この一文だけで「人間のイヤな部分」を全部呼び出せるのが怖いところです。 [oai_citation:0‡Netflix](https://www.netflix.com/jp/title/81662954)
このシリーズは全6話のリミテッド。だらだら引き伸ばさない。逃げ道も作らない。だから視聴者も逃げにくい。気付いたら次のエピソードへ指が伸びる。Netflixの赤いNが、いつもより少しだけ怖く見える夜が来ます。
刺さるポイントは 事件よりも 夫婦の視線のズレ
ミステリーに必要なのは手掛かり。サスペンスに必要なのは緊張。ではこの作品に一番必要なのは何か。僕は「同じ光景を見ているのに、違うものが見えてしまう視線」だと思っています。
アナは取材者として町に戻る。情報を拾うのが仕事。人の表情の曇りを嗅ぎ取るのが武器。対してジャックは刑事。証拠と手順が命。規則の上で踏み固めて進むタイプ。なのに二人は夫婦だった。ここが残酷で面白い。
夫婦って、同じ現場に立てば強い。そう思いがちです。でも現実はよくある。仕事の癖は家庭にも漏れる。家庭の傷は仕事にも漏れる。漏れたものが床に広がって、誰かが滑る。毎回同じ人が滑るとは限らない。だから怖い。
キャストが強い 言葉を出す前に顔が語る
主演はテッサ・トンプソンとジョン・バーンサル。アナ役がテッサ、ジャック役がジョン。もうこの二人の並びだけで、胸の奥がざわつく人は多いはず。 [oai_citation:1‡ぴあエンタメ情報](https://lp.p.pia.jp/article/news/445769/index.html?detail=true&utm_source=chatgpt.com)
テッサ・トンプソンは、硬さと柔らかさを同時に出せる稀な人です。強気に見えるのに、ふとした瞬間に孤独が漏れる。しかも「弱さを見せるために弱くなる」のではなく、「強いまま傷が見える」。このバランスがうまい。
ジョン・バーンサルは、怒りの火種を常に持っている俳優だと思っています。派手に爆発させても似合うし、爆発を我慢している顔も怖い。刑事役が似合いすぎて、逆に「この人が犯人でも納得しそう」と視聴者を揺らす。卑怯です。
そしてNetflixの作品ページにも出ていますが、パブロ・シュレイバーほか実力派が脇を固める。情報量の多い会話でも、置いていかれにくいのは演技が整理されているから。ここ、地味に効いてます。 [oai_citation:2‡Netflix](https://www.netflix.com/jp/title/81662954)
監督と制作の温度感 乾いた画面に湿った本音
海外ドラマは制作体制が複雑に見えますが、本作は「ミステリー・スリラーの手つき」が統一されている印象が強い。Wikipedia等の情報では、開発にウィリアム・オールドロイド、ショーランナーにディー・ジョンソンの名が挙がります。 [oai_citation:3‡ウィキペディア](https://en.wikipedia.org/wiki/His_%26_Hers_%282026_TV_series%29?utm_source=chatgpt.com)
ここで僕が気に入っているのは、説明過多にしないところ。視聴者に「察して」と言いながら、察しやすい形で置く。意地悪ではない。でも優しすぎもしない。ちょうど、別居中の夫婦が相手に見せる優しさの量に近い。つまり、少なめで刺さる。
音楽が良い 目立たないのに神経に触る
こういう心理スリラーで大事なのは、音が派手に「怖がらせない」こと。びっくり箱みたいな音で驚かせると、感情が軽くなる。本作はそこを外していない。オリジナルスコアを担当するのはMac Quayle。緊張を少しずつ上げるのが得意な作曲家で、静かな場面ほど効いてきます。 [oai_citation:4‡フィルムミュージックレポーター](https://filmmusicreporter.com/2026/01/08/netflix-his-and-hers-soundtrack-album-details/?utm_source=chatgpt.com)
さらに、劇中で使われる既存曲も混ぜ方がうまいという指摘が出ています。例えばIrma ThomasやChris Isaakなどが話題に上がっていました。曲の選び方が「登場人物の過去」を匂わせるタイプ。これがまた嫌な匂いで良い。 [oai_citation:5‡Vague Visages (Vawg-Vee-Sawj)](https://vaguevisages.com/2026/01/11/his-and-hers-soundtrack-netflix-songs/?utm_source=chatgpt.com)
あなたは、静かなシーンで音が薄くなった瞬間にゾクッとしたことはありませんか。あれ、脳が勝手に最悪の想像をし始める合図なんですよね。
裏側の楽しみ方 原作と映像の距離がちょうど良い
この作品、ベストセラー小説が原作です。Netflixの配信作品としても「本が原作のTV番組・ドラマ」に分類されている。つまり骨格が強い。 [oai_citation:6‡Netflix](https://www.netflix.com/jp/title/81662954)
原作ものって、映像化すると「説明しすぎ」か「省きすぎ」のどちらかに転ぶことが多い。でも本作は、情報の出し方が上品です。視聴者に考える余地を残す。なのに置いていかれない。このバランスは脚本と編集の勝利でしょう。
それに、リミテッドシリーズという形式が効いている。引き延ばしの誘惑が少ない。終わらせる覚悟が最初からある。Netflixのリミテッドは当たり外れが出やすいけど、当たった時の切れ味は強い。今作はその側です。 [oai_citation:7‡People.com](https://people.com/will-there-be-a-his-and-hers-season-2-11884451?utm_source=chatgpt.com)
ここが刺さった 夫婦の会話が優しくないのにリアル
僕は、夫婦が互いに「相手を分かっているつもり」で話す瞬間が好きです。好きというより、見たくなる。だってそこに、過去の時間が全部詰まっているから。
ジャックが正しさを盾にする時、アナは正しさの形そのものを疑う。アナが感情を武器にする時、ジャックは感情を証拠にできないと苛立つ。噛み合わない。けれど噛み合わないのは、相手を知らないからではなく、知りすぎたから。夫婦の会話って、怖いですよね。
二人が事件を追う姿は、仕事としては有能に見える。でも家庭としては破綻の香りがする。この二重構造が、視聴者の心を落ち着かせない。落ち着けないのに、見てしまう。厄介。だがそれが良い。
ネタバレなしで言える見どころ 田舎町の空気が濃い
本作の町は、暑さが肌に残るタイプの描写が多い。南部の空気。閉じたコミュニティ。噂が早い。知らない顔が浮く。そういう場所で事件が起きたらどうなるか。想像は簡単です。現実はもっと嫌な方向へ行く。
このシリーズは「誰が犯人か」だけではなく、「なぜこの町がこうなってしまったのか」という空気も追っている。だから見ていて息苦しい。でもその息苦しさは、作品の味です。
こんな人に刺さる 夜に見ると睡眠が浅くなるタイプ
ミステリー好き
手掛かりの置き方が丁寧で、終盤まで視線がブレる。犯人当ての快感もある。けれど、それ以上に「人間の自己正当化」が怖い。
サスペンス好き
銃撃戦や派手な追跡より、言葉と沈黙で締め上げるタイプ。静かに心拍数を上げてくる。寝る前に見ると、変な夢を見る可能性あり。
ドラマ好き
夫婦の関係性が主役。事件は装置であり、鏡でもある。鏡に映るのは犯人だけじゃない。視聴者の自分も少し映る。そこが怖い。
ところで、あなたは「自分だけは真実を見ている」と思ったことはありませんか。僕はあります。だいたい間違っていました。人は簡単に自分に都合のいい編集をします。動画編集より速い。しかも無料。悲しい無料。
配信情報と基本データ まずは6話だけでいい
- 配信: Netflixで2026年1月8日から独占配信
- 話数: 全6話のリミテッドシリーズ
- 主な出演: テッサ・トンプソン、ジョン・バーンサル、パブロ・シュレイバー ほか
- 音楽: Mac Quayle (オリジナルスコア)
[oai_citation:8‡Netflix](https://www.netflix.com/jp/title/81662954)
この作品が刺さった人におすすめ 似ているのに別の痛み
同じ方向の作品を勧めるのは簡単です。でも僕は少しだけズラして勧めたい。似た快感の中に、違う刺さり方がある作品。見終わった後の余韻が変わるから。
夫婦や恋人の心理戦が好きなら
会話の中に嘘が混ざる作品が向いています。相手を守るための嘘と、自分を守るための嘘。どちらが厄介か。だいたい後者です。
田舎町ミステリーが好きなら
閉鎖的なコミュニティの圧と、噂の速度が武器になる作品へ。町そのものが犯人みたいに見えてくるやつ。
静かなサスペンスが好きなら
音楽と沈黙で追い詰める作品へ。派手さより、呼吸の乱れを狙ってくるタイプ。Mac Quayleの仕事が好きな人なら相性がいいはず。 [oai_citation:9‡フィルムミュージックレポーター](https://filmmusicreporter.com/2026/01/08/netflix-his-and-hers-soundtrack-album-details/?utm_source=chatgpt.com)
余談 こういう作品をNetflixが作るのがうれしい
Netflixって、ときどき「見たいジャンルの棚」を急に充実させます。しかも期間限定のように。今作みたいなリミテッドの心理スリラーを、ちゃんと俳優パワーで押し切りつつ、空気も作る。これが出来ると、配信の強みが生きる。
一本の映画だと短い。長期シリーズだと重い。その間にある6話。ちょうどいい毒。仕事で疲れている夜ほど、こういう毒が効く。効きすぎて寝不足になるかもしれませんが、それもまた娯楽です。たぶん。
参考情報: Netflix作品ページ、配信開始日の告知記事、サウンドトラック情報。 [oai_citation:10‡Netflix](https://www.netflix.com/jp/title/81662954)
