まず言いたい。死滅回游 前編は、優しい導入ではないです。
肩慣らしのつもりで見始めたら、だんだん顔が真剣になる。そういう章である。
渋谷事変で世界が壊れた。いや、壊した側がいる。そこに生き残った側の感情が残る。虎杖の罪悪感が残る。だから空気が重い。けれど、作品としては軽快でもある。矛盾しているようで、これが呪術廻戦の妙味です。
死滅回游という仕組みは、言ってしまえば「ルールで人を殺し合わせる箱庭」だ。
でも箱庭のサイズが日本列島級。やめてくれ、スケール感が物騒すぎる。
死滅回游 前編 どんな作品か
本作はTVアニメ第3期の前編として放送される死滅回游編のスタート地点。
渋谷での大惨事を経て、物語は国家規模の異常事態へ滑り込む。日常が戻る兆しは薄い。むしろ遠ざかる。
死滅回游は「参加者」「点数」「ルール追加」などゲーム的な要素を持つのに、見心地は全然ゲームっぽくない。画面の温度が低い。選択の代償が高い。笑ってる場合じゃない瞬間が多い。なのに見てしまう。いや、見ちゃう。
前編が担う役割 何を見せたいのか
前編の役割は明確で、主要プレイヤーの再配置と、世界のルールの提示です。
ただし、説明は丁寧すぎない。視聴者が自分で追いつく作りになっている。忙しい社会人に優しくない? そう思う人もいるだろう。でもこの強気が、呪術廻戦らしさでもある。
分からないまま走らされる感じ。置いていかれそうで置いていかれないギリギリ。これが気持ちいい。
ストーリーの手触り 罪悪感と暴力と、わずかな希望
死滅回游 前編で強く残るのは、虎杖が背負ったものの重さです。
彼は正義の少年でいたい。だが現実は、彼を簡単に赦さない。
渋谷で宿儺が奪った命の数は、作品世界の倫理を壊すには十分すぎた。虎杖はそれを自分の中に引き受けてしまう。本人の意思とは無関係でも、心はそう動く。
この「背負い方」が、少年漫画の主人公としては妙に生々しい。そこが好きだ。きれいに立ち直らない。立ち直れない。だから見ていて刺さる。
虎杖と乙骨 同じ師を持つ者同士の最悪な再会
前編の見どころの一つが、虎杖と乙骨の衝突にある。
同じ師を持つ。だが立場が違う。背負っているものも違う。正しさの種類が違う。
乙骨は優しい。優しいからこそ、容赦できる場面がある。そこが恐ろしい。
あなたはどっちの正しさに寄りかかりたくなるだろう。虎杖か、乙骨か。答えを急ぐと、多分どっちも外す。
キャラクター増量で画面がうるさい それが楽しい
死滅回游は登場人物が一気に増える。
増えるだけなら混乱する。だが呪術廻戦は、増やし方が上手い。短い出番でも輪郭を刻む。台詞が刺さる。動きが怖い。癖が濃い。
秤金次と星綺羅羅 乱暴なカリスマの匂い
秤は「頼れる味方」という枠に収まらない。
信用できそうでできない。怖いのに魅力がある。こういうキャラは現場に一人いると空気が変わる。
星綺羅羅もまた、視線の置き方が独特で、画面の雰囲気を変えるタイプ。静かな圧がある。
日車寛見と髙羽史彦 この作品の倫理観を揺らす人たち
日車は言葉が鋭い。正義を語る人間の怖さを持っている。
髙羽は逆に、ふざけているようで核心をえぐる。緊張を緩める役なのに、笑っていいのか迷う瞬間がある。いや、迷わせる時点で勝ちだ。
スタッフと制作陣 画面の説得力は偶然ではない
死滅回游 前編の監督は御所園翔太。
シリーズ構成と脚本は瀬古浩司。制作はMAPPA。音楽は照井順政。
こう書くと情報の羅列だが、視聴後に「ああ、この布陣か」と納得するはず。
戦闘の迫力だけでなく、間の取り方が上手い。会話の空気がちゃんと湿っている。虎杖のしんどさが伝染する。伝染してほしくないのに伝染する。勘弁してほしい。でもそれが作品の強さだ。
MAPPAの作画は筋肉だけじゃない
MAPPAの良さというと、バトルの重量感が先に挙がりがち。
けれど死滅回游 前編は、顔の演技が効く。視線の逃げ方、口角のわずかな動き、呼吸の間。こういう地味な芝居が積み上がって、殴り合いが痛くなる。
音楽の話 OPとEDは気分のスイッチだ
オープニングテーマはKing Gnuの「AIZO」。
始まった瞬間に、今期は明るくないと分かる。音のエッジが立っていて、焦りと昂りが同居している。テンションを上げるのに、心は落ち着かない。不穏である。
エンディングテーマはjo0jiの「よあけのうた」。
こちらは虎杖の心に寄り添う形で刺してくる。沈む夜の話をしているのに、音の中に朝がある。あの感じがずるい。見終わった後にため息が出る人、いるだろう。
照井順政の劇伴 乾いた街に鳴る心拍
劇伴は空気を支配する。
派手に前に出るより、背中から押す。背中から脅す。死滅回游はルールの暴力がテーマでもあるので、音が規則正しく聞こえる瞬間が怖い。心拍みたいで。
声優陣 叫びの温度が違う
虎杖悠仁の榎木淳弥は、疲れと怒りの混ざり方が上手い。
元気な少年の声が出せる人が、元気を失った少年を演じると刺さる。刺さりすぎて困る。
乙骨憂太の緒方恵美は、優しさと殺気を同居させるのが得意すぎる。あの声で淡々と迫ってくると、画面の酸素が薄くなる。
伏黒恵の内田雄馬は冷静さの中に焦りがある。禪院真希の小松未可子は決意が鋼の音で鳴る。脹相の浪川大輔は、兄としての情がむしろ怖い。
こういう「声の重さ」が、死滅回游の生々しさを底上げしている。
裏側の面白さ 死滅回游は構造が脚本家泣かせ
死滅回游は、システムが複雑だ。
参加宣誓、点数、ルール追加、術式剥奪。言葉だけだと硬い。そこに人物ドラマを載せる必要がある。これが難しい。
脚本面の工夫として、キャラの目的を先に立ててからルールを見せる流れが多い。人が動いているから、ルールが理解できる。逆だと眠くなる。ここが上手い。
それでも情報量は多い。だから視聴中に一度は思うはずだ。「これ、全部回収できるのか」と。
前編の怖さは、未回収が前提なところ
死滅回游 前編は、全部を説明しない。
隠すというより、まだ見せない。視聴者の不安を燃料にしている。意地が悪い。だが快感でもある。
この作りは、考察好きにとってはごちそう。アニメ好きにも刺さる。食べ過ぎ注意だ。
死滅回游 前編を100倍楽しむ見方
渋谷事変の後遺症を見る
前編を楽しむコツは、バトルだけを追わないこと。
虎杖の表情の変化、会話での言い淀み、視線の揺れ。こういうディテールが、渋谷の後遺症として効いている。ここが見えると、死滅回游は急に辛くなる。辛いのに面白い。困った。
ルールを丸暗記しない
死滅回游のルールは、最初から完全に覚えなくていい。
ポイントは「誰が何のために点を欲しがるか」。目的を見ていけば、ルールは勝手に頭に残る。
忙しい人ほど、この見方が合う。流し読みならぬ流し見でも付いていける。
この作品が好きなら刺さる関連作品
ここからは偏見で並べる。異論は認める。だが私はこう思う。
呪いとルールが支配する作品
- HUNTERxHUNTER キメラアント編 ルールより感情が怖い瞬間がある
- デスノート 正義を振り回す人間の顔が見える
- Fate Zero 大義名分の殴り合い 乾いた勝ち方しか残らない
群像劇の快感と地獄
- 進撃の巨人 世界の構造が変わる瞬間を何度も見せてくる
- DARK ドイツのドラマだが 時間と因果の泥沼が好きなら刺さる
- PSYCHO-PASS ルールが人を裁く世界の居心地の悪さ
MAPPAの熱量を浴びたい人へ
- チェンソーマン 画面の温度と音の使い方が独特
- ヴィンランド・サガ 暴力と祈りが同居する
視聴前の小さな準備 これだけで置いていかれにくい
最低限の復習ポイント
- 渋谷事変で虎杖が何を背負ったか
- 五条悟の封印が今も続いている事実
- 死滅回游が「参加しないと術式が剥奪されうる」構造であること
この3つだけ押さえれば、前編の入り口は固くなる。
あとは作品が殴ってくる。遠慮なく殴ってくる。
2つだけ聞きたい
あなたは、虎杖の罪悪感に共感してしまうタイプだろうか。
それとも、乙骨の合理性に安心してしまう派か。
どちらでもいい。どちらも痛い。だから面白いのだ。
作品データ 放送と楽曲と制作陣
スタッフ
- 原作 芥見下々 集英社 ジャンプコミックス刊
- 監督 御所園翔太
- シリーズ構成 脚本 瀬古浩司
- 制作 MAPPA
- 音楽 照井順政
- オープニングテーマ King Gnu AIZO
- エンディングテーマ jo0ji よあけのうた
主なキャスト
- 虎杖悠仁 榎木淳弥
- 伏黒恵 内田雄馬
- 乙骨憂太 緒方恵美
- 禪院真希 小松未可子
- 脹相 浪川大輔
- 秤金次 中井和哉
- 日車寛見 杉田智和
観終わった後にやると楽しいこと
PVを見直す。音だけ聴き直す。台詞の温度を思い出す。
OPとEDの歌詞に目を通してから、もう一度本編を流す。これで感情の刺さり方が変わる。
そして、渋谷事変のエピソードを1話だけ見返す。戻りたくないのに戻ってしまう。そういう作品だ。