【決定版レビュー】『プレデター バッドランズ』は“怪物視点の英雄譚”だ フランチャイズを更新する異色の一作を、世界観と裏側から徹底解剖する

はじめに:プレデターがついに「主人公」になってしまった件

プレデターという存在は、長年「森に潜む恐怖」「都市を彷徨う死神」「ゲーム感覚で人類を狩る上位捕食者」として描かれてきました。

そこにきて『プレデター バッドランズ(Predator: Badlands)』は、はっきりと言ってしまいます。

「今回の主役はプレデター側です。」

舞台は遠い未来、辺境惑星。

主人公はクランから追放された若きヤウトジャ(プレデター)、名をデク。

相棒は分離可能なアンドロイド、ウェイランド・ユタニ社製シンセティック「シア」。

人間側視点ゼロ。

狩る者の視点で描くロードムービー的プレデター映画。

「おいおい、そこまで振り切って大丈夫か。」

と不安になるコンセプトを、ダン・トラクテンバーグ(『Prey』の監督)が本気で成立させにきたのが『バッドランズ』です。

映画好き、エンタメ好き、アニメ好き、そして長年フランチャイズを追ってきた人ほど、この作品は“語り甲斐のある一作”になっています。

この記事では、

  • 作品概要と物語の魅力
  • なぜ「プレデター主役」がここまでハマったのか
  • 映画的・物語的な“学び”ポイント
  • 制作裏側の情報とシリーズ全体との接続
  • 『バッドランズ』が刺さった人への関連作品ガイド

を、WPセーフなテキストで、最後まで読み切りたくなる流れで徹底的に掘り下げていきます。


基本情報:『プレデター バッドランズ』とは何者か

まずは事実関係を整理しておきましょう。

  • 原題:Predator: Badlands
  • 公開:2025年11月7日(20th Century Studios配給)
  • 監督:ダン・トラクテンバーグ(『Prey』『10 クローバーフィールド・レーン』)
  • 脚本:パトリック・エイソン
  • 出演:
    • デク:ディミトリアス・シュスター・コロアマタインギ
    • シア:エル・ファニング
  • レイティング:PG13
  • ジャンル:SFアクション、アドベンチャー、ドラマ、スリラー
  • 舞台:遠い未来、過酷な辺境惑星(バッドランズ)

スタジオ公式のシノプシスを要約すると、

一族から追放された若きプレデターが、謎多きシンセティック「シア」と共に、究極の獲物を追う危険な旅へ出る物語。

という、完全に「プレデター視点の英雄譚」です。

ここで既にポイントは三つ。

  1. 主人公がプレデター(しかも若造、しかも追放者)
  2. 人類ではなくシンセが相棒
  3. 舞台が地球ではなく未来の辺境惑星

つまり『バッドランズ』は、

「プレデターというIPを、本気で“宇宙SF冒険譚”の側に拡張した第一歩」

と言っていい作品です。


物語の核:これは「怪物が人間になる」成長譚である

ネタバレを避けつつ、物語の骨組みを整理します。

デクは未熟で、血と名誉に飢えた若いプレデター。

しかし彼はクランの掟に従えず、追放され、名誉も居場所も失った存在です。

そんな彼が、バッドランズと呼ばれる危険な惑星で、

  • 異形の巨大クリーチャー
  • 敵対クランのハンター
  • ウェイランド・ユタニの影を背負うテクノロジー

と対峙しながら、「究極の獲物」を求めて進む。

この旅の中で重要なのが、シアという相棒の存在です。

シアは、身体が分離可能なシンセティック。頭部と胴体と四肢が別々に動き、監視、ハッキング、サポートを行うという、映像的にもギミック的にも非常に楽しいキャラクター。

デクは当初、彼女を「道具」としか見ていませんが、

  • 自分より論理的で
  • 自分より冷静で
  • 時に自分より“倫理的”ですらある

という存在と行動を共にする中で、次第に「狩り」と「名誉」の意味を問い直されていく。

この構図は完全に、

モンスターとアンドロイドのバディムービーであり、

「人間性とは何か」を問い返すSFとしての王道

です。

プレデター映画にそんな哲学を求めてなかった、という人ほど意外な手応えを感じるはずです。


プレデター視点で描くことの面白さ:シリーズ的“革命ポイント”

『バッドランズ』最大の功績は、「観客をついにプレデター側に座らせた」ことです。

1. これまでのシリーズとの決定的な違い

従来のプレデター映画では、

  • 人間側の恐怖やサバイバルが主軸
  • プレデターは「神話的な敵」「理不尽に強いハンター」

として描かれてきました。

『Prey』ではプレデターが相対化され、「原始的な戦士の知恵と勇気」で倒されることで神話が更新されましたが、依然として視点は人間側でした。

『バッドランズ』はここを一歩進めて、

「プレデターにも若さ、劣等感、選択ミス、家族問題がある」

という非常に人間臭い側面を掘り下げます。

その結果、

  • プレデター種族の掟
  • クラン間の力学
  • 「狩り」と「名誉」の価値観
  • 宇宙規模での政治的な匂い

といった要素が物語の中に自然に織り込まれ、ファンフィクション的な妄想の領域だったものが、公式映像作品として輪郭を持ち始めます。

これはフランチャイズにとって相当大胆な一手です。

2. 「敵の内面化」がもたらす快感

敵を主役にすると緊張感が死ぬのでは、という懸念もありますが、『バッドランズ』はちゃんと“プレデターならではのハードさ”を維持しています。

  • デクは甘くない判断をする
  • シアも万能ではない
  • バッドランズの環境は常に即死級

「主役だから死なないでしょ」という甘さはほぼなく、

どの瞬間も「ギリギリで生きている狩人」としての緊張感が保たれている点は、シリーズファンとしてもかなり満足度が高い部分です。


映画好き・アニメ好き視点で刺さる要素

ターゲット層に寄せて、分かりやすく言い換えます。

1. 完全に「SFバディもの」として観て楽しい

デクとシアの関係性は、

  • 不器用な戦士と、皮肉屋かつ有能なサポートAI
  • 物理的にも精神的にも「背中に背負う」相棒

という、ロボットアニメやSFゲーム的なド直球コンビ。

口数は多くないが、行動で成長を見せるデク。

論理的でありながら、次第にデクの選択に“情”を見出していくシア。

このバランスが、スーパー戦隊のバディ回やロボットアニメの相棒回が好きな層に絶妙に刺さります。

2. 異星モンスター祭りとしても優秀

本作はPG13ながら、

  • 巨獣とのバトル
  • 地形を利用したハンティング
  • プレデター同士、あるいは異種族との戦闘

をしっかり見せてくれます。

血しぶき全開のスプラッター路線ではなく、「クリーチャーアクションとしての迫力」に振っているので、エンタメとして非常に見やすい仕上がりです。

3. 設定好き・世界観オタクが喜ぶ仕掛け

  • ウェイランド・ユタニの技術と関与
  • 時系列が『エイリアン』シリーズ終盤以降の未来に位置すると示唆される構成
  • プレデター種族と人類文明との距離感の変化

など、「Alien×Predatorユニバース」の長期構想を匂わせる情報が散りばめられています。

考察好きにはご褒美だらけです。


裏側の物語:制作背景とクリエイターの狙い

1. ダン・トラクテンバーグが挑んだ「Preyの先」

『Prey』で高評価を得たトラクテンバーグ監督が、続けてプレデター作品を任された時点で方向性は二択でした。

  1. また人間視点で、別の時代のサバイバルを描く
  2. いっそプレデター側に飛び込む

彼は迷わず後者を選び、「プレデターを主人公に」「人間を排除する」というコンセプトを掲げたと語っています。

そのため、『Prey』の主人公ナル(アンバー・ミッドサンダー)を本作に登場させる案も実際に検討されましたが、

「人間が出てきた瞬間、この作品のコンセプトがブレる」

と判断し、あえて外したことがインタビューで明かされています。

これはフランチャイズファンとしては寂しくもありつつ、「作品単体の芯を守った」という意味で非常に重要な決断です。

2. ジェームズ・キャメロンからのアドバイス

監督はプロモーションの中で、ジェームズ・キャメロンと意見交換したエピソードにも触れています。キャメロンは『エイリアン2』で「軍隊 vs モンスター」の黄金パターンを確立した人物。

彼からの示唆は、

  • アクションと世界観のスケールを広げつつ
  • キャラクターと感情の核を絶対に手放さないこと

という、ごくシンプルで本質的なものだったとされます。

『バッドランズ』でのデクとシアの感情線は、この方針をしっかり踏まえて設計されているのが分かります。

3. 「エイリアン」世界との距離感

一部メディアや監督インタビューでは、『バッドランズ』がエイリアン世界の遥か未来側に位置していることが示唆されています。

  • Weyland-Yutaniテクノロジーの発展度
  • 宇宙規模での企業活動の痕跡
  • プレデター側にとっても「人類は既知の存在」という空気

これらが繋がると、

「人類もプレデターも、もっと大きな宇宙史の一部に過ぎない」

という、広いビジョンが見えてきます。

「AVP再起動あるのでは」と勘ぐりたくなる布石もあり、シリーズファン会議がまたざわつくこと必至です。


学びポイント:『バッドランズ』から見えるフランチャイズ再生のヒント

少し真面目に、この作品から得られる“物語とシリーズ運営の学び”も整理しておきます。

1. 視点を変えると、同じ怪物が新しく見える

プレデターという存在は、長年消費され続けたIPです。

そこに対して、

  • 「敵としての強さ」ではなく
  • 「文化と掟を持つ種族としてのドラマ」
  • 「未熟な一個人の成長物語」

として描き直すことで、疲弊しかけたフランチャイズを再活性化している。

これは他の長寿シリーズにも応用可能な教科書的アプローチです。

2. 設定てんこ盛りにせず、“一本芯”を通す重要性

『ザ・プレデター』が迷走の例とすれば、『Prey』と『バッドランズ』はその反省を踏まえた「一本軸映画」です。

  • 『Prey』:少女 vs プレデターのサバイバルに集中
  • 『バッドランズ』:若きプレデターとシアの旅に集中

情報は増えているのに、“主役とテーマがぶれない”。

「設定は世界を広げるためではなく、主人公の物語を深くするために使う」

という、物語づくりの基本を丁寧に守っている点は、創作志望者にも大いに参考になります。

3. ファンサービスは「我慢」も含めて設計する

ナル不参加の件が象徴的ですが、

  • 出せば盛り上がるキャラ
  • でも今出すと作品の芯が揺らぐ要素

をきちんと見極め、「今回は出さない」という選択をしたことは、実はかなり勇気ある判断です。

シリーズ運営において、「足し算」だけでなく「引き算」こそが未来をつくる、という好例でもあります。


この映画が刺さった人へのおすすめ作品と鑑賞ルート

最後に、『プレデター バッドランズ』が気に入った、あるいは気になっているあなたに向けて、「この順番で観ると沼が深くなる」関連作を挙げます。

1. 『Prey』

トラクテンバーグ監督がプレデター像を再構築した前作的存在。

  • シンプルなサバイバル
  • 美しい自然描写
  • プレデターの“野生動物としての怖さ”

『バッドランズ』で見える「プレデター文化」の土台を感じるためにも必見です。

2. 『プレデター』(1987)

全ての始まり。

デクが求める「究極の獲物」とは何か、その概念がどこから来たのかを知るうえで、やはり避けて通れません。

  • 強者同士の対決
  • 語りすぎない神話性
  • 森と肉体と知恵の映画

『バッドランズ』の“逆サイド”として観ると、プレデター像の振れ幅がよく分かります。

3. 『プレデターズ』

「選ばれた殺し屋たち vs スーパープレデター」という、ゲーム的サバイバル編。

  • プレデター社会の派閥
  • 狩場惑星という発想
  • 捕食者目線の拡張

が、『バッドランズ』の方向性に繋がる重要作です。

4. 『プレデター2』

都市を狩場にした異色作。

クラン複数登場、トロフィールーム、クロスオーバーの種まきなど、「世界観を広げる勇気」を初めて見せた一本として、今見ると『バッドランズ』の祖先に見えてきます。

5. 『エイリアン2』『ブレードランナー2049』などの「敵/他者視点」系

  • 『エイリアン2』:軍隊SFとモンスターの黄金比を学べる
  • 『ブレードランナー2049』:人間でない存在の内面と魂を描く手本

『バッドランズ』の「非人間視点で感情を描く」試みに響き合う作品として併せておすすめします。


まとめ:『プレデター バッドランズ』は“シリーズを未来に投げた一歩前進作”だ

『プレデター バッドランズ』は、

  • プレデターを初めて真正面から主人公に据え
  • 若きアウトサイダーとシンセティックのバディムービーとして成立させ
  • フランチャイズの世界観を宇宙規模に押し広げ
  • それでいて一本の成長譚としてもきちんと完結させた

非常に野心的で、かつよくコントロールされた作品です。

完璧な映画かと言われれば、議論の余地はあります。

しかし「プレデターシリーズをここから先の時代に持っていくための、決定的な転換点」であることは間違いありません。

あなたがもし、

  • ただの怪物映画だと思ってこのシリーズを遠巻きに見ていたなら
  • あるいは昔のプレデター像にだけ愛着があるなら

『バッドランズ』は、その固定観念をいい意味で裏切ってくれるはずです。

そして観終わった頃にはきっとこう考えるでしょう。

「次は、どの星で、どの時代で、どんなプレデターと“どんな他者”が出会うのか。」

その問いを観客に残した時点で、この作品は役目を果たしています。

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