ロードムービーの次に来たのは、“どこにでもある町”の物語
第三部「スターダストクルセイダース」で、ジョジョは世界を旅しました。
対して第四部「ダイヤモンドは砕けない」は、ほぼ全編が日本の地方都市・杜王町の中だけで完結します。
空条承太郎のクールな旅路から、東方仗助とその仲間たちが織りなす
“ちょっとおかしな日常と連続殺人事件のミステリー”へ。
舞台はローカル、スケールはコンパクト。
それでも、いや、だからこそ、第四部は
- シリーズで一番好き
- 一番「帰りたくなる」物語
と語るファンが多いパートです。
この記事では世界一のライターかつ映画評論家として、
- 作品の魅力とテーマ
- キャラクターとスタンドの面白さ
- アニメ版ならではの演出
- 荒木飛呂彦が杜王町に込めた意図と制作の裏側
- そして映画・アニメ好きにこそ刺さる鑑賞ポイントと関連作
まで、第四部「ダイヤモンドは砕けない」を丸ごと味わえる形で解説していきます。
作品概要
「ダイヤモンドは砕けない」はジョジョ第四部
まずは基本情報をざっくり整理しておきます。
- 作者:荒木飛呂彦
- シリーズ:ジョジョの奇妙な冒険 第四部
- 掲載誌:週刊少年ジャンプ
- 連載:1992年〜1995年(第三部の直後)
- 舞台:1999年、日本のM県S市杜王町(架空の地方都市)
物語の主人公は、第三部・ジョセフの隠し子である高校一年生
東方仗助(ひがしがた じょうすけ)。
あらすじを簡単にまとめると――
- 祖父ジョセフ・ジョースターの血を継ぐ少年・仗助に、スタンド能力が目覚める
- 東京からやってきた空条承太郎は、仗助の出生と、杜王町に潜むスタンドの謎を伝える
- 町には、願いをかなえるが人の運命を狂わせる「弓と矢」がばらまかれ、 次々と新たなスタンド使いが誕生していく
- 学校の友人、街の不良、サラリーマン、主婦、漫画家、果ては猫や電柱まで さまざまなスタンド使いがひしめき合う杜王町
- やがて、町で長年続いていた「連続女性失踪事件」の黒幕 吉良吉影の存在が浮かび上がり、物語は日常からサスペンスへ加速していく
第三部が“世界の運命を賭けた旅”だったとすれば、
第四部は“町と日常を守るための戦い”。
スケールを小さくしたことで、
逆にキャラクターの息遣いや町の空気感が濃密に描かれる構造になっています。
杜王町という舞台装置
小さな町が、これほど魅力的に感じる理由
第四部の主役は、実は仗助だけではありません。
「杜王町」という架空の町そのものが、物語の主役のひとつです。
この町は、
- M県S市に属する地方都市・杜王町
- 海もあり、山もあり、商店街もあれば住宅地もある
- やたらスタンド使いの人口密度が高い
という、田舎と都会の中間のような場所。
荒木飛呂彦は、杜王町のモデルが自身の故郷・仙台であることを明かしており、
80年代以降、住宅開発で一気に新興住宅が増え、知らない人が急に町に増えていく不安感をもとに設定を作り上げたと語っています。
つまり杜王町は、
- 懐かしさと新しさが入り混じる
- 安心できるのに、どこか不穏さも漂う
という、第四部の空気そのものを体現した舞台なのです。
アニメ版では、背景美術・色彩設計でこの感覚がさらに強化され、
- ピンクや黄緑など非現実的な空の色
- ポップでカラフルな家や道路
- 昼下がりのやけに鮮やかな影
といった“荒木カラー”が、画面いっぱいに広がっています。
結果として、視聴者にとって杜王町は
- 行ったことがないのに、なぜか懐かしい
- 物語が終わっても「また帰ってきたくなる」
そんな町として記憶に残るのです。
アニメ版「ダイヤモンドは砕けない」
39話で描き切った“日常系ホラーサスペンス”
第四部は2016年、デイヴィッドプロダクション制作でTVアニメ化されました。
- タイトル:ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない
- 監督:津田尚克(総監督)、加藤敏幸(シリーズディレクター)
- シリーズ構成:小林靖子
- キャラクターデザイン:西位輝実
- 音楽:菅野祐悟
- 話数:全39話(2016年4月〜12月放送)
デイヴィッドプロダクションは、第一部から続くアニメ版ジョジョの制作を一貫して担当しており、
- 擬音を画面に直接表示する
- カラーリングを大胆に反転させる
- 原作の独特なコマ割りをカメラワークで再現する
といった“ジョジョ的アニメ演出”を確立したスタジオです。
第四部では、キャラデザが第三部までとガラリと変わり、
- 等身がやや低め
- カラーリングがよりビビッドでポップ
- 少年漫画らしい親しみやすさ
が前面に出るスタイルへシフトしました。
このデザイン変更が「日常とホラー」のバランスにぴったりで、
- 日常パートはほのぼのと楽しく
- 事件やバトルが始まると一気に色彩と構図が攻撃的になる
というメリハリが、視聴体験に中毒性を生んでいます。
ストーリー構造
日常ギャグ、スタンドバトル、そして連続殺人鬼・吉良吉影
第四部のストーリーは、大きく三つのレイヤーに分かれています。
- 日常コメディ・友情ドラマ
- スタンド使いとのバトル・事件解決
- 連続殺人鬼・吉良吉影を追うサスペンス
この三つが、杜王町という箱庭の中で同時進行していく構造です。
日常パートでは、
- 仗助、康一、億泰の高校生トリオ
- 仗助の母親、じいちゃん、仗助と微妙な関係のジョセフ
- 学校の教師、同級生、商店街の人々
などが織りなす、ローカルで愛おしい日常が描かれます。
そこに、矢に射抜かれたことで能力に目覚めた
- 不良
- サラリーマン
- 主婦
- バイト店員
- 猫
- 電柱
といった“ザ・杜王町民スタンド使い”が現れ、
毎回違う能力バトルや事件を引き起こす。
この繰り返しの中に、
じわじわと「吉良吉影」という名も顔も分からない殺人鬼の影が差し込まれてくるわけです。
そして物語後半、
ついに姿を現した吉良との“追う者と追われる者”のサスペンスへとシフトしていく。
日常からサスペンスへの滑らかなスライド感は、
映画やドラマの構成として見てもかなり見事です。
東方仗助という新しい“ジョジョ像”
第四部の主人公、東方仗助は
それまでのジョジョ主人公像から、いい意味で外れたキャラクターです。
- 髪型をけなされるとブチ切れる
- でも根はものすごく優しい
- ヤンキーっぽい見た目なのに、町と家族を心から大切にしている
そして彼のスタンド「クレイジー・ダイヤモンド」は
- 「直す」能力
- 壊れた物体や負傷した肉体を修復できる
- ただし、自分自身は治せない
という、攻撃ではなく“修復”に特化した力です。
この設定がすごくジョジョ的で、
- 正面から殴り合うだけでなく
- 直す力を応用したトリッキーな攻撃
- 「元に戻す」ことによる逆転劇
など、バトルの幅を一気に広げました。
そしてなにより、
- 主人公のスタンドが「破壊」ではなく「治癒」
- 主人公自身も、守りたいのは世界ではなく、自分の町と身近な人たち
という点で、第四部のテーマ
「日常を守るヒーロー」と完璧にシンクロしています。
吉良吉影という“静かな狂気”
第四部を語るうえで欠かせないのが、
シリーズ屈指の人気悪役・吉良吉影。
彼は
- 杜王町のサラリーマン
- 目立つことを嫌い、静かで平穏な生活を望む
- それでいて長年にわたり女性の手だけを標的にした連続殺人を繰り返している
という、異様に静かな狂気を纏った人物です。
スタンド「キラークイーン」は、
- 触れたものを爆弾に変える
- さらに二つの能力形態を持つ“マルチフォーム”スタンド
として登場し、仗助たちと互角以上の戦いを繰り広げます。
興味深いのは、吉良が
- 世界征服を企むわけでも
- 強大な支配欲を持っているわけでもない
という点。
あくまで
- 平穏な暮らしを続けたい
- ただし、そのためなら殺人も証拠隠滅も厭わない
という、ひたすら“自分の小さな幸せ”に執着する悪役なのです。
この「スケールは小さいが、倫理的には最大級にヤバい」というバランスが、
第四部のサスペンスを非常に現代的なものにしています。
映画好き目線で言えば、
- 『羊たちの沈黙』のレクター博士ほど派手ではないが
- 『パラサイト』や『ジョーカー』のような、社会と個人の歪みが産んだ怪物
として、かなり高い完成度のキャラクターだと言えるでしょう。
岸辺露伴という“作者の分身”とスピンオフの広がり
第四部で初登場し、その後スピンオフとして独立したのが
漫画家の岸辺露伴。
彼のスタンド「ヘブンズ・ドアー」は
- 人の身体を本のように“読む”
- ページのようなものに、その人の過去や秘密が書かれている
- さらにそこに命令文を書き込むことで、相手の行動を制御できる
という、これまたとんでもない能力です。
露伴は、荒木飛呂彦自身の分身とも言われるキャラクターで、
- 取材のためなら命の危険も顧みない
- 奇妙な現象があると聞けば、絶対に飛び込んでいく
- 漫画のためなら何でもする
という、職業的狂気を持っています。
この露伴を主人公にしたスピンオフ「岸辺露伴は動かない」は、
漫画版に加えOVA、そしてNHKによる実写ドラマ版としても制作され、
2020〜2024年にかけて人気シリーズとなりました。
第四部は、こうした後続作品の母体にもなっているという点で、
ジョジョ世界の“ハブ”のような位置付けでもあります。
制作の裏側とデザインの進化
第四部は、荒木飛呂彦の画風が大きく変化した時期とも重なっています。
- 第三部までは筋肉質でアメリカンコミック的な体型
- 第四部以降は等身がややスリムに、ファッション性がアップ
という変化は、ファンの間でもよく語られるポイントです。
アニメ版では、この変化を反映する形で、
- キャラクターデザインを西位輝実が担当
- 色彩をよりビビッドに、ポップアート的な方向へ
- スタンドのデザインもより立体的・メカニカルに
という、美術面でのブラッシュアップが行われています。
制作スタジオのデイヴィッドプロダクションは公式サイトで、
本作を“ジャンプ原作の第四部アニメ化作品”として
全工程を担当したことを紹介しており、
声優演技や音響も含め、かなり作り込まれたシリーズであることが分かります。
主題歌やBGMも高く評価されており、特に
- オープニング曲「Crazy Noisy Bizarre Town」「chase」「Great Days」
- エンディングに使われたSavage Garden「I Want You」
などが、杜王町の日常感と狂気を象徴する楽曲として強烈な印象を残しました。
映画・アニメ好き目線での鑑賞ポイント
第四部は、映画やアニメが好きな人ほど楽しいポイントがたくさんあります。
日常×ホラーのハイブリッド構造
- 一見ゆるい日常エピソード
- その裏に潜む殺人鬼の影
- 普通の風景の中に“異物”として現れるスタンド
この構造は、
- 『シックス・センス』
- 『ストレンジャー・シングス』
- 『ひぐらしのなく頃に』
といった日常ホラー系作品に通じるものがあります。
小さな町を舞台にしたサスペンス
杜王町という箱庭の中で、
- 誰がスタンド使いか分からない
- 隣人やクラスメイトが、ある日突然“敵”として現れるかもしれない
という不安感は、サスペンス映画でよくある
- 「この町には秘密がある」
- 「ご近所が実は連続殺人鬼かもしれない」
という構図とまさに同じです。
キャラクター群像劇として
仗助、康一、億泰、露伴、承太郎、早人、由花子、吉良吉影……
第四部はとにかくキャラクターがよく動きます。
誰か一人の成長物語ではなく、
- 町全体の人間関係が少しずつ変化していく
- それでも最終的には「杜王町は守られた」と感じられる
という群像劇的な満足感は、
ドラマシリーズや群像映画が好きな人にはたまらないはずです。
この作品が好きならおすすめしたい作品
ジョジョシリーズ内
- 第三部 スターダストクルセイダース 承太郎の旅路と第四部への橋渡しとして。アニメ版を見てから第四部に入ると、承太郎の変化も楽しめます。
- 第五部 黄金の風 ギャングスターものとしてのサスペンスと、第四部で成熟したスタンドバトルの集大成。
スピンオフ・関連作
- 岸辺露伴は動かない(漫画・OVA・実写ドラマ) 露伴目線で描かれる“ジョジョ版 世にも奇妙な物語”のような短編集。
- 実写映画「ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章」 2017年公開、三池崇史監督・山崎賢人主演。実写ならではのアレンジも含め、賛否込みで一度は触れておきたい一本です。
他作品(映画・アニメ)
- パラサイト 半地下の家族 日常の中に潜む異物と階級差、静かな狂気という点で吉良と比較すると興味深いです。
- ストレンジャー・シングス 未知の世界 小さな町×超常現象×少年少女の群像劇という意味で、杜王町編との親和性高め。
- ひぐらしのなく頃に 田舎町を舞台にした、日常と惨劇の反復構造を楽しみたい人に。
- 推しの子 日常と業界の裏側、そしてサスペンスの混ざり具合が、第四部的なバランスに通じます。
まとめ
なぜ「ダイヤモンドは砕けない」は、こんなにも“帰りたくなる”物語なのか
第四部「ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない」は、
- 世界を救う物語ではなく
- ひとつの町と、そこに暮らす人たちの日常を守る物語
です。
だからこそ、
- 戦いが終わったあとも町は続いていく
- 犠牲もあったが、それでも日常は戻ってくる
- そして視聴者は、「また杜王町に遊びに行きたい」と思う
そんな不思議な余韻が残ります。
映画好き、エンタメ好き、アニメ好き。
どんな入口から入ってきた人にとっても、第四部は
- 日常系
- ホラー
- サスペンス
- コメディ
- 少年バトル
あらゆるジャンルが“奇妙なバランス”で成立している、
非常に豊かな作品です。
もしまだ第四部をきちんと通して見たことがないなら、
ぜひアニメ版39話をゆっくり味わってみてください。
そして見終わったら、きっとこう思うはずです。
「やっぱり杜王町は、帰りたくなる町だな」
そのとき、あなたの心の中にも
砕けないダイヤモンドみたいな“好き”が、
ひとつ増えているはずです。