犯罪映画には二種類ある。
頭を空っぽにして楽しめるものと、見終わったあと妙に現実が重くなるもの。
クライム101は、間違いなく後者だ。
しかもこの映画、派手な爆発も大げさな銃撃戦も控えめ。
その代わり、じわじわ効いてくる。
タイトルの時点で、すでに不穏である。
101。
入門編。
つまり基礎だ。
犯罪の基礎とは何か。
その問いを、観客の膝元に静かに置いてくる。
この映画は何を描いているのか
物語の軸はシンプルだ。
連続宝石強盗。
犯人は一人。
チームではない。
そして彼はルールを守る。
犯罪のルールを。
目立たない。
欲張らない。
同じ場所で二度やらない。
これがクライム101。
犯罪の教科書に書いてある初歩中の初歩。
だが、その完璧さが疑念を生む。
ベテラン刑事が感じる違和感
刑事ルー役を演じるのはJ・K・シモンズ。
この時点で、映画の空気は締まる。
彼の演技は派手ではない。
声を荒げない。
だが、目がうるさい。
違和感を嗅ぎ取る嗅覚が、画面越しに伝わってくる。
なぜ一人でできる。
なぜミスをしない。
なぜ、こんなに教科書通りなのか。
あなたが刑事なら、この犯行を信じるだろうか。
犯人側が主役のようで主役ではない
犯人役はクリス・ヘムズワース。
筋肉の人、という印象を持っているなら、この映画は少し裏切ってくる。
静か。
理知的。
感情を抑えた演技。
むしろ危ういのは、感情を見せないところだ。
完璧な計画。
完璧な実行。
だが人間は計算式ではない。
そこが崩れたとき、映画は一気に牙をむく。
派手さを捨てた演出の怖さ
この映画、音が少ない。
BGMも控えめ。
代わりにあるのは沈黙。
ドアを閉める音。
靴音。
呼吸。
観ている側が、無意識に息を詰める構造になっている。
これはアクション映画の文法ではない。
サスペンスの文法だ。
監督の狙いが透ける瞬間
監督はバート・レイトン。
実話ベース作品を得意とするタイプだ。
彼の演出は一貫している。
説明しすぎない。
観客に委ねる。
分からなくても置いていく。
だが、置いていかれた人ほど後で気付く。
クライム101という言葉の皮肉
この映画の一番の皮肉はここだ。
ルールを守りすぎると、逆に目立つ。
完璧さは異常になる。
基礎に忠実であることが、罠になる。
これは犯罪の話であり、仕事の話でもある。
人生の話でもある。
マニュアル通りにやっているのに、なぜかうまくいかない。
そんな経験、ないだろうか。
音楽が語らないという選択
本作の音楽は主張しない。
盛り上げない。
だからこそ、不安が残る。
安心させるメロディがない。
感情を誘導しない。
観客は、自分の感情と向き合うしかなくなる。
この映画が刺さる人、刺さらない人
スピード感を求める人には向かない。
分かりやすいカタルシスも少ない。
だが、静かな心理戦が好きな人には刺さる。
後からじわじわ来るタイプだ。
見終わってすぐ感想が出ない映画。
それがクライム101。
この映画が好きならおすすめしたい作品
ヒート
刑事と犯罪者の距離感が似ている。
ナイトクローラー
ルールを守る狂気という点で共鳴する。
ノーカントリー
善悪が溶ける感覚が近い。
個人的な偏見と感想
この映画は優しくない。
観客を慰めない。
だが、正直だ。
犯罪は美しくない。
完全でもない。
ルールを覚えた瞬間から、ルールは破られる準備を始める。
クライム101は、その瞬間を描く映画だと思っている。
あなたはどうだろう。
完璧な計画を信じる側か。
それとも疑う側か。
この映画は答えを出さない。
だが、問いは確実に残る。
クライム101。
これは犯罪映画の顔をした、人間観察の物語である。