タイトルがもう悪い。RIP。墓標みたいで、メメントモリみたいで、なのに中身は汗と銃と札束だらけ。Netflixオリジナル映画「The Rip」は、マット・デイモンとベン・アフレックがまた組んで、マイアミの湿った空気を丸ごと画面に閉じ込めたクライムスリラーです。見る前から分かる。これは「人間がダメになる瞬間」を撮りたがっている顔だ、と。
正直、僕はこういう作品に弱い。警官が正義の顔をして、ほんの少しだけ境界線を踏み越えた瞬間に、世界がみるみる小さくなる話。そこに友情が混ざると、もっと厄介。友情は美しい。だが、同時に言い訳にもなる。そういう映画だ。
あらすじは単純で、だから危ない。マイアミの警官チームが、ボロい家(いわゆるスタッシュハウス)で大金を見つける。そこから信頼が崩れていく。疑心暗鬼の連鎖。薄い壁。遠くのサイレン。近い呼吸。お金は静かに人を壊すのに、壊れる音だけはやけに派手だ。
作品データ まずは最低限だけ押さえる
Netflix公式の作品ページでは、2026年作品のスリラーとして紹介されています。主演クレジットはマット・デイモン、ベン・アフレック、スティーヴン・ユァン。ここだけでもう期待が勝つ。俳優の組み合わせが強いのに、題材が「金と警官」だから、勝手に火花が散る。逃げ道がない配役です。
- 主演 マット・デイモン
- 主演 ベン・アフレック
- 出演 スティーヴン・ユァン、テヤナ・テイラー ほか
- 監督 ジョー・カーナハン
- 音楽 クリントン・ショーター
- 配信 Netflix
監督のジョー・カーナハンは、乾いたバイオレンスと、ちょっとだけ口の悪いユーモアを同居させるのが上手い人です。真顔で冗談を言うタイプ。だから「The Rip」みたいな、人間関係が焼ける作品が似合う。
RIPという呼び名 何がどう「Rip」なのか
そもそも「Rip」って何だよ、と思う人もいるはず。カーナハン本人が説明していて、これはスラングで「悪い奴のブツを奪う」みたいな意味合いがあるらしい。言葉がもう犯罪寄り。正義の制服を着た人間が使う言葉としては、かなり危うい香りがする。そこが良い。
そして「The Rip」は、チームの空気が軽いところから始まりません。最初から湿っている。銃の金属が冷たい。札束だけが温かそうに見える。そんな温度差の映画です。
僕が好きなポイントは「札束の扱いが雑ではない」ところ
銃撃戦とかカーチェイスとか、派手な看板はいつでも作れる。でも、この映画が面白いのは「金を数える」という地味すぎる作業を、ちゃんとサスペンスにしている点。お金は数えないと現実にならない。現実になった瞬間、人は守りに入る。守りに入ると疑う。疑うと関係が壊れる。美しい流れです。
しかも、手続きとして「現金は手で数え、二度カウントが必要」という現場の話が語られている。これが効く。ルールがあると破ったときの罪悪感が増える。罪悪感が増えると人間は攻撃的になる。映画の中の暴力が、ちゃんと心理の延長線上に置かれる。
あなたがもし同じ部屋で、目の前に数千万ドルの札束を見たらどうしますか。笑う? 手が震える? それとも、平気な顔をして「いつも通りです」と言える? 僕は無理だ。無理な人間が無理をする映画、そこに価値がある。
主演2人の相性 友情が武器にも毒にもなる
マット・デイモンとベン・アフレックは、言うまでもなく長い付き合いのコンビ。だからセリフが刺さる。視線だけで通じる感じがある。ここが強い。友情って、観客にも伝染するんですよ。こっちまで「この2人は大丈夫だろう」と勝手に思ってしまう。で、思った瞬間に裏切られる。映画はその快感を知っている。
NetflixのTudumでも、2人の長い協業史を改めてまとめたりしていて、作品の売りが「この2人がまた組んだ」ことにあるのは明らかです。友情を看板に掲げて、友情を試す話をやる。意地が悪い。だが、映画は意地が悪い方が面白い。
監督 ジョー・カーナハンの手癖が良い方向に出た
カーナハン作品は、ドライに見えて実は人間臭い。登場人物に優しくはないけど、切り捨てもしない。だから「The Rip」も、誰かが完全な悪になりきらない。なりきれないから苦しい。苦しいから目が離せない。
インタビューでも、実際の出来事では現金カウントに相当な時間がかかった話や、現場のディテールが語られていました。映画は全部を再現しない。けれど「本当にありそうな面倒さ」だけは残す。これがリアリティの作り方として上手い。
裏側の話が気持ちいい 1200人のクルーにボーナスの仕組み
僕が個人的にグッときた裏話がある。アフレックとデイモンが、Netflixとの契約でクルーにも成果連動の一時金ボーナスが行く仕組みを作ったという話。作品のヒット次第で、撮影に関わった約1200人が報われる可能性がある。こういう話を聞くと、映画の中の「金」が単なる小道具じゃなくなる。現実の制作現場でも、金は人を救いもする。
もちろん、制度があれば全てが救われるわけじゃない。でも「作品が当たったら現場にも還元する」という発想は、配信時代の空気をちょっと変える。そこが良いじゃないですか。
音楽 クリントン・ショーターの仕事が渋い
音楽はクリントン・ショーター。派手なメロディで泣かせるタイプではない。むしろ、空気の圧を上げてくる。電子音とオーケストラの混ぜ方が上手く、緊張の針を少しずつ刺していく感じがあります。カウントシーンや、疑いが増幅する場面で効いてくる。耳に残るというより、背中に残る音だ。
サウンドトラックのリリース情報も出ていて、作品の外でも音が独立して走っている。映像を見終わったあと、BGMなしの部屋が少し物足りなくなる。こういう後味は好きです。
どこがNetflix的か 早い段階で心拍数を上げてくる
近年のNetflix映画には「早めに強い見せ場を置く」傾向がある、と当事者が語っていたりもする。視聴者がスマホを触るから、置いていかれないようにする。身もふたもないが、現実だ。だから「The Rip」も、ゆっくり煮込むだけで勝負しない。最初から圧をかけてくる。
ただ、僕はこの作品が「急いでいる」だけだとは思わない。急いでいるのは登場人物の心だ。札束がある。敵が来るかもしれない。内部にも敵がいるかもしれない。焦りが映像に染み出している。そう見える。
原作や実話要素 どこまで本当でどこから映画なのか
この手の作品で気になるのは「実話ベース」問題ですよね。The Ripは、マイアミの警官が大金を見つけた出来事に着想を得たとされ、現実の事件や人物に触れた記事も出ています。ただし映画としてのドラマは脚色も多い。現実の断片を燃料にして、フィクションとしての地獄を構築するタイプだ。
実話だと思って見ると、真面目なドキュメンタリーの目になってしまう。僕はそれをおすすめしない。これは「正義の制服を着た人間の、感情の崩壊」を味わう映画です。現実を借りた寓話。そういう見方の方が、刺さると思う。
アニメ好きにも刺さる理由 「チームが壊れる話」は普遍
アニメの世界でも、チーム崩壊は鉄板です。仲間割れ。裏切り。信頼の再構築。見ていて苦しいのに、やめられない。少年漫画のバトルも、結局は信頼の話になりがちですしね。
The Ripも同じ。銃はある。暴力もある。けれど中核は「誰を信じるか」。これがアニメ好きに刺さる。人間関係のバトルだから。
ところで、あなたはチームの中に一人でも「怪しい人」がいたら、どう動きますか。全員を疑う? それとも一人だけでも信じる? 仕事の現場でもある話で、だから痛い。映画は痛いほど現実に近い。
僕の偏見も混ぜる こういう警官映画は湿っているほど良い
乾いた正義の警官映画も嫌いじゃない。でも、僕は湿ったやつが好きだ。汗と罪悪感と、言い訳と、優しさの残骸が混ざっているやつ。The Ripは湿っている。海風で乾くはずの街なのに、妙に湿っている。そこが良い。
そして、ベン・アフレックの「ちょっとだけ疲れた顔」が効く。マット・デイモンの「まだ間に合うと信じたい顔」も効く。顔の演技だけで、関係が崩れる音がする。俳優の勝ちです。
見どころを思いついた順に並べる
数える手 元気がなくなる瞬間のリアル
札束を数える手が、途中から機械になる。人間が作業に吸われていく感じ。こういう描写が好き。
会話の温度差
冗談を言える人と、言えない人が同じ部屋にいる。空気が割れる。割れたまま戻らない。その感覚。
スティーヴン・ユァンの存在感
彼がいると、画面の「倫理」が揺れる。善悪を固定しない俳優だと思う。だから厄介で、だから良い。
テヤナ・テイラーが持ってくる強さ
筋肉の強さじゃなく、判断の強さ。迷わない瞬間がある人物は、混乱の中で光る。光るほど周りが暗く見える。
映画内で使われる音楽 何が鳴っているのか
本作の音楽面は、劇伴(スコア)が主役です。クリントン・ショーターのスコアが、場面の緊張を押し上げる構造になっている。サウンドトラックとしてもリリース情報が出ており、作品の音の輪郭は公式に追える状態です。
一方で、劇中で流れる既存楽曲(いわゆる挿入歌)の網羅的な公式リストは、僕が確認できた範囲では見当たりませんでした。もし「この曲名まで入れて欲しい」という用途があるなら、視聴しながらShazam等で拾うのが一番早い。手段としては地味だが確実です。
この映画が好きなら ついでにこれも見てほしい
ここからは趣味の時間。似ているからというより、同じ部位が痒くなる作品を並べます。
ヒート(Heat)
仕事と矜持と、相手への奇妙なリスペクト。男同士の距離感が好きなら刺さる。暑いのに冷たい映画。
トレーニング デイ(Training Day)
正義の制服の中身が、別物だったと気づく恐怖。師弟関係が崩れるときの地獄が見たい人向け。
インファナル アフェア
裏切りが仕事になった世界。誰が誰なのか分からなくなる快感がある。The Ripの疑心暗鬼と相性が良い。
ザ タウン
アフレックの匂いが好きなら。犯罪と地元の重さ。逃げたいのに逃げられない感じが近い。
ノー カントリー(No Country for Old Men)
金が人を呼び寄せる恐ろしさ。追う者と追われる者の温度差。静けさが怖い映画が好きなら。
余韻 これは友情の映画でもあるし 友情の映画ではない
友だちって、正しいから一緒にいるわけじゃない。分かり合えるから一緒にいるとも限らない。たまたま長く隣にいた、というだけで深い絆に見えることがある。The Ripは、その曖昧さを突いてくる。だから胸がざわつく。
RIPというタイトルが、誰のためのものなのか。見終わると、ちょっと嫌な想像が頭に残るはずです。嫌な想像をさせる映画は、たいてい面白い。僕はそう信じている。
