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アニメ『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド/戦闘潮流』は、
荒木飛呂彦による同名漫画の第1部「ファントムブラッド」と第2部「戦闘潮流」を一気にアニメ化した、シリーズ1st Seasonです。
2012年10月から2013年4月まで全26話が放送され、
1~9話が第1部「ファントムブラッド」、10~26話が第2部「戦闘潮流」という構成になっています。
監督は津田尚克、シリーズ構成は小林靖子、
アニメーション制作はdavid production。
ジョジョアニメシリーズの礎を作った布陣であり、
以降の「スターダストクルセイダース」以降へ続く“ジョジョアニメ的文法”は、
ほぼこの1st Seasonで完成したと言っていいでしょう。
この記事では、
・第1部「ファントムブラッド」と第2部「戦闘潮流」の魅力と違い
・アニメ版ならではの表現、演出、音楽
・キャラクターとテーマの掘り下げ
・制作の裏側やアニメ化の意義
・この2部作が好きなら次に見るべき作品
までを、映画好き・アニメ好きが楽しめるように、
少しユーモアも交えつつ、じっくり語っていきます。
作品概要
「ファントムブラッド/戦闘潮流」とは何か
まずはざっくりと基本情報を整理しておきます。
・原作:荒木飛呂彦『ジョジョの奇妙な冒険』
・漫画連載:週刊少年ジャンプ(第1部~第2部は1980年代後半に連載)
・アニメ1st Season放送期間:2012年10月~2013年4月(全26話)
・制作スタジオ:david production
・構成:
– 第1部「ファントムブラッド」(19世紀末イギリス)
– 第2部「戦闘潮流」(1930年代の世界各地)
スタッフ面では、
・監督:津田尚克
・シリーズディレクター:鈴木健一
・シリーズ構成:小林靖子
・キャラクターデザイン:清水貴子(1st Season)
・音楽:
– ファントムブラッド:松尾早人
– 戦闘潮流:岩崎琢
という、今振り返っても豪華な布陣。
特に小林靖子のシリーズ構成は、
原作の空気を崩さずにテンポよく再構成しており、
“原作付きアニメ構成の教科書”的な出来栄えです。
第1部「ファントムブラッド」あらすじと魅力
気高き紳士と悪のカリスマ、すべての原点
ファントムブラッドは、
のちに長く続くジョースター一族の物語の“起点”となるエピソードです。
・舞台:19世紀後半のイギリス
・主人公:ジョナサン・ジョースター(ジョジョ)
・宿命のライバル:ディオ・ブランドー
・キーアイテム:石仮面と波紋(ハモン)
裕福なジョースター家の一人息子ジョナサンの前に、
ある日養子としてやって来た少年ディオ。
最初は「悪意を隠し持つ嫌な奴」レベルだった彼が、
やがて石仮面によって吸血鬼となり、
世界を支配せんとする“純度100%の悪”へと変貌していく。
ジョナサンは、
奪われた家族と誇りを取り戻すため、
波紋法の師匠ツェペリと仲間たちと共に、
ディオとの最終決戦に挑んでいきます。
ファントムブラッドの魅力は、
なんと言っても「直球すぎるほどの王道少年漫画」。
・正々堂々が信条の紳士ジョナサン
・どこまでも堕ちていく悪徳の塊ディオ
・熱すぎる師匠ツェペリ
・力を合わせる仲間たち
という、
まっすぐな構図が、ハードなホラー要素とくっつくことで、
「古典的だけど、どこか奇妙」な世界観を生み出しています。
アニメ版では、
クラシックホラー風の色使いと、
いかにもヨーロッパな背景美術が効いていて、
「ゴシック×少年漫画バトル」という独特の空気が一気に立ち上がってきます。
第2部「戦闘潮流」あらすじと魅力
知恵とハッタリで世界を救う不良孫
戦闘潮流の主人公は、
ジョナサンの孫にあたるジョセフ・ジョースター。
・舞台:1930年代、ロンドン、ニューヨーク、メキシコ、ローマ、スイスなど
・主人公:ジョセフ・ジョースター(ジョジョその2)
・敵:柱の男(カーズ、エシディシ、ワムウ、ほか)
・引き継がれる能力:波紋
・ヒロイン兼師匠:リサリサ
このジョセフが、とにかく初代ジョジョ・ジョナサンと真逆。
・策略とハッタリで勝つ
・「次のセリフはこう言う!」と相手の台詞を先回りで言い当てる
・ヘタレなようで土壇場では命を張る
・怒らせると柱の男にも真正面からケンカを売る変な度胸
と、性格も戦い方も、
いい意味で少年漫画の主人公テンプレから外れている。
荒木飛呂彦自身も、
「第1部の主人公ジョナサンがあまりにも模範的な紳士だったので、
第2部のジョセフは、その真逆の“狡猾な主人公”にしたかった」
と語っています。
戦闘潮流は、
古代から眠る「柱の男」たちが復活し、
石仮面と絡みあう“究極生命体”の企みを阻止する物語。
アニメ版では、
・ラテンなノリのオープニング「Bloody Stream」
・極端に派手な色彩設計
・ポーズを決めた瞬間にバシッと入るテロップ
など、
“演出もやたらと陽気でスタイリッシュ”な方向へ振り切られていて、
ファントムブラッドのクラシカルな雰囲気からのギャップも含めて、
まさに「戦闘潮流」というタイトルにふさわしい疾走感です。
ファントムブラッドと戦闘潮流
2つをセットで観るから見えてくる「血統」と「進化」
この1st Seasonの面白いところは、
第1部と第2部が“連続して”描かれることで、
ジョースター家の血統の変化と、作品そのものの進化が同時に見えてくるところです。
ジョナサンとジョセフの主人公像の違い
・ジョナサン:
– どこまでも真っ直ぐな紳士
– ルールを守り、筋を通し、正面からぶつかる
– 「勇気」「誠実」の象徴
・ジョセフ:
– 頭の回転と話術と悪知恵で勝つ策士
– 敵の裏をかくことに喜びを感じる
– でも根っこの部分に、祖父譲りの情と責任感がある
この“主人公の進化”は、
少年漫画の潮流そのものでもあります。
1980年代後半の少年ジャンプは、
肉体派の熱血主人公から、
より知略型やアンチヒーロー的な主人公へとシフトしていく時期。
ジョジョ1部から2部への移り変わりは、
その時代の変化を、作品そのものが体現しているようにも見えます。
「血統」とは何かというテーマ
また、
ジョースター家の「血」は、力そのものではなく、
「どう生きるか」「何を受け継ぐか」の象徴として描かれます。
ジョナサンが遺したものは、
単なる肉体的強さではなく、
・仲間を信じる姿勢
・不屈の精神
・理不尽な悪に対して立ち向かう覚悟
それを、
孫のジョセフが“ひねくれた形”で受け継いでいるのが、
とてもジョジョらしい継承の仕方です。
アニメ版ならではの表現
david productionが作り上げた“ジョジョアニメの文法”
正直、ファントムブラッド/戦闘潮流のアニメ化発表当時、
ファンの間には「本当にあのクセの強い絵柄をアニメでやれるのか?」
という不安もありました。
結果として、david productionは
「荒木絵をそのまま動かす」のではなく、
・色彩
・レイアウト
・構図
・カメラワーク
を工夫することで、
“アニメとしてのジョジョ”を作り上げています。
色彩が突然反転する「ジョジョ色彩」
戦闘中など、キャラクターの心情が高ぶると、
背景やキャラクターの色が突然変わる、
いわゆる「ジョジョ色彩」の演出。
これは原作のカラーページやイラストで見られる、
奇抜な配色をアニメに落とし込んだもので、
単なる“色違い”ではなく、
「別次元のテンションに入った」ことを視覚的に伝える役割を持っています。
擬音を画面に乗せる暴挙(褒め言葉)
原作ジョジョといえば、
擬音がページを埋め尽くす漫画としても有名ですが、
アニメでも「ドドドドド」「ゴゴゴゴゴ」といった文字が、
そのまま画面上に浮かび上がります。
これにより、
・緊張感
・異物感
・“ここから何か起こるぞ”感
が一瞬で共有され、
漫画からアニメへの“翻訳”として非常に成功しているポイントです。
オープニング映像の完成度
第1部OP「ジョジョ~その血の運命~」、
第2部OP「Bloody Stream」は、
どちらもアニメ版ジョジョの顔とも言える名オープニング。
3DCGと手描きをミックスした映像は、
原作の名シーンや構図をこれでもかと詰め込みつつ、
曲のサビに合わせてポーズがビシッと決まる。
アニメ1st Seasonの時点で、
後のシリーズで続いていく“ジョジョOPの美学”がほぼ完成しているのは、
改めて見返すと感動ものです。
キャラクター論
ディオとジョセフ、二つの“主役級存在”
ファントムブラッドと戦闘潮流を一気に見ると、
一人の悪役と一人の主人公が、
いかにシリーズの核になっているかがよく分かります。
ディオ・ブランドーという“悪の完成形”
ディオは第1部の敵役でありながら、
ジョジョシリーズ全体を通しても、代表的なヴィラン。
・出自は貧民街
・異常な上昇志向
・他人を道具としか見ない価値観
・それでもどこか魅力的で、目が離せないカリスマ
アニメ版では、
子安武人の芝居が、
「これだよこれ」としか言いようのないハマり具合で、
セリフがいちいち耳に残ります。
ディオの存在があるからこそ、
ジョナサンの清廉さが際立ち、
ジョースター家の宿命もドラマとして厚みを増していきます。
ジョセフ・ジョースターというシリーズの“橋渡し役”
一方でジョセフは、
第2部の主人公でありながら、
第3部『スターダストクルセイダース』にも重要キャラクターとして登場し、
さらに第4部にも老いた姿で顔を出す、シリーズ有数の長寿キャラ。
荒木飛呂彦自身もインタビューで、
「各部の橋渡し役としてジョセフを使った」と語っており、
ジョースター家の歴史をつなぐ“生きたリンク”として機能しています。
・若い頃はハッタリと機転で世界を救うトリックスター
・年を取ってからは、知恵と経験で次世代を支えるじいちゃん
この変化も含めて、
ジョセフはシリーズ屈指の愛されキャラクターと言えるでしょう。
テーマ解説
ホラーでもバトルでもなく、“奇妙な冒険”である理由
「ファントムブラッド/戦闘潮流」を、
単なるバトルアニメとして消費してしまうのは、
正直もったいない。
この2部で荒木飛呂彦が仕込んだテーマを、
ざっくり三つに整理してみます。
1 人間賛歌としてのジョジョ
よく語られるキーワードとして「人間賛歌」という言葉があります。
第2部のラスト近く、
究極生命体となったカーズに対して、
それでもなお人間の可能性を示そうとするジョセフ。
・寿命では圧倒的に劣る人間
・太陽にも宇宙空間にも耐えられない
・身体能力も神には遠く及ばない
それでも、
仲間と知恵と覚悟を武器に戦い続けるジョセフの姿は、
まさに人間賛歌そのものです。
2 血統と選択
ジョースター家の血は、
何か特別な“チート能力”を意味しているわけではありません。
むしろ、「血」が与えるのは、
・過去の因縁(ディオとの戦い)
・背負わされた責任
・先代からの眼差し
といった“どうしようもなく重いもの”です。
その中で、
ジョナサンもジョセフも、
「それでも自分はこう生きる」と決めていく。
血統があるから偉いのではなく、
血統に抗いながら、それでも前に進もうとする姿こそが、
ジョジョらしいヒロイズムです。
3 マッチョな絵柄で繊細な感情を描く
筋肉ムキムキの男たちがポーズを決める絵面のせいで、
知らない人には“ゴリゴリの肉弾戦漫画”に見えがちですが、
実際にはかなり繊細な感情が描かれます。
・ジョナサンとディオの、捻じれた兄弟関係
・ツェペリの自己犠牲と、それを引き継ぐジョナサン
・ジョセフとシーザーの不器用な友情と別れ
・リサリサの過去と、ジョースター家とのつながり
「濃い絵柄」と「繊細なドラマ」のギャップが、
ジョジョの“奇妙さ”の重要な要素でもあります。
制作の裏側とアニメ化の意義
なぜ今、1st Seasonからだったのか
2012年、ジョジョ連載25周年のタイミングで発表されたアニメ化企画。
当時、
「いきなり人気の高い第3部からやるのでは?」という予想もありましたが、
あえて第1部・第2部からスタートしたことには、大きな意味があります。
・ジョースター家の起源と宿命をきちんと描く
・石仮面や波紋など、後の部にも続く設定を丁寧に説明する
・ディオというシリーズ最大級の悪役の“出発点”を見せる
この土台があるからこそ、
後続の「スターダストクルセイダース」以降が、
より深く楽しめる構造になっているのです。
また、映像的にも、
第1部のクラシカルなイギリス
第2部の戦前ヨーロッパとアメリカ
という対照的な世界観を連続して描くことで、
「ジョジョは部ごとにガラッと雰囲気を変える」という特徴を、
早い段階で視聴者に印象づける狙いもあったはずです。
はじめて観る人への視聴ガイド
ファントムブラッドで挫折しないために
よくある声として、
「第1部の序盤でちょっと退屈してしまった」というものがあります。
たしかに、
・作画や演出が、他の深夜アニメと比べて一癖ある
・ヴィクトリア朝ドラマ風の展開がゆっくり感じる
・ディオとジョースター家の関係説明が長め
など、今どきのアニメに慣れていると、
最初の数話でテンションが合わないこともあるかもしれません。
そこでおすすめしたい、
“無理なくハマるための見方”をいくつか。
・まずは9話までを見るつもりで構える
– ファントムブラッドは全9話構成なので、そこまでを“一本の長編映画”として見る感覚で。
・「古典ホラーのリメイク」を観るつもりで楽しむ
– ディオの悪の化身っぷりや、ゾンビ軍団のビジュアルは、
B級ホラー映画のような味わいで楽しむとちょうどいいです。
・戦闘潮流から先に観て、後から戻るのもアリ
– ジョセフのテンションに掴まれてから、第1部に戻る人も多いです。
– 物語の理解順としては1→2がベストですが、楽しみ方としては順番にそこまで厳密でなくても大丈夫。
この作品が好きなら要チェック
おすすめの関連作品と次の一歩
ファントムブラッド/戦闘潮流が刺さったなら、
次はどこへ進めばいいのか。
いくつか方向性別におすすめを紹介します。
さらにジョジョを深掘りしたい人へ
・ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース
– 第3部。承太郎とスタンド能力が登場し、
「スタンドバトルもの」としてのジョジョが確立。
・ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない
– 第4部。日本の地方都市を舞台にした“日常系ミステリー×バトル”。
– キャラクターものとしての完成度が高く、アニメとしても非常に見やすい。
・小説「JORGE JOESTAR」
– ジョセフの父ジョージを描いたスピンオフ小説。
– マニア向けですが、2部ファンにはたまらないネタが多め。
キャラクター性や美学が好きな人へ
・BAOH 来訪者
– 荒木飛呂彦の前作。
– すでに「奇妙なポーズ」や肉体表現の萌芽が見られ、ジョジョの原点としても楽しめます。
・北斗の拳
– マッチョ×バトル×劇画テイストが好きなら、外せない作品。
– 「男のドラマ」の系譜としてジョジョとの比較も面白いです。
・ベルセルク
– 重厚な世界観とゴシックホラー的な要素が好きなら。
– こちらは遥かにダークですが、「人間と化け物」「宿命」というテーマの共通点があります。
“奇妙な”アニメ体験を求める人へ
・どろろ(2019年版)
– 戦国ダークファンタジーで、身体の一部を奪われた主人公が旅をする物語。
– 呪いや因果、復讐と救済といったテーマが、『ジョジョ』とは違う角度から描かれます。
・メイドインアビス
– 美しいビジュアルと容赦ない展開のギャップが、ある意味ジョジョに通じる作品。
– “危険な冒険”としてのスリルを求める人におすすめ。
まとめ
ファントムブラッド/戦闘潮流は「入門編」ではなく、「ジョジョという現象の序曲」
アニメ『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド/戦闘潮流』は、
単にシリーズの“最初の方”をアニメ化した作品ではありません。
・ジョースター家の血統と宿命を描き出す始まりの物語
・主人公像の変化を通して、少年漫画の進化を映し出す作品
・david productionが築き上げた“ジョジョアニメの文法”の原点
・人間賛歌と血統、奇妙な美学が凝縮された序曲
として、
後の部を楽しむための「前提知識」以上の価値を持つシーズンです。
もしあなたが、
・派手なスタンドバトルのイメージだけでジョジョを避けていた人
・第3部以降しか知らない人
・最近の作品から入り、原点を知らないままの人
であれば、
この1st Seasonに戻ってくることで、
ジョジョというシリーズ全体の“骨格”と“血流”が、
一気につながって見えてくるはずです。
ゴシックホラー調の第1部から、
陽気でトリッキーな第2部へ。
その“戦闘の潮流”の変化を、
ぜひ一気見で体感してみてください。
そして気づいたときには、
あなたもきっと、部屋の片隅で
無意識にポーズを決めているはずです。