このタイトルを見ただけで、胸の奥がざわついた人は多いはずだ。
閃光のハサウェイ。
そしてキルケーの魔女。
優しさはない。
救いも分かりにくい。
それでも目を離せない。
本作は、ガンダムという巨大シリーズの中でも、特に重たい空気をまとっている。
ロボットアニメの枠を、とうに踏み越えている。
ハサウェイはなぜこんなにも孤独なのか
主人公ハサウェイ・ノアは、最初から疲れている。
若さゆえの衝動ではない。
正義感の暴走でもない。
分かってしまった人間の顔をしている。
理想が現実を救わないこと。
暴力は連鎖すること。
それでも動かずにはいられないこと。
この時点で、ヒーロー像は完全に崩されている。
彼は選ばれたのではなく、逃げられなかった
ハサウェイは特別な存在ではない。
血筋はある。
過去もある。
だが、彼自身は選ばれた感覚を持っていない。
むしろ逆だ。
降りるタイミングを失った。
この感覚、どこかで覚えがないだろうか。
気付いたら責任の中に立っていた経験。
キルケーの魔女が象徴するもの
キルケーという言葉が示すのは、誘惑ではない。
この作品においては、逃避と麻痺だ。
甘い言葉。
理解を示す態度。
それらが、どれほど人を弱くするか。
ギギ・アンダルシアは、ただのヒロインではない。
彼女は問いそのものだ。
戦わなくてもいい世界は存在するのか。
それは幻想なのか。
ギギという存在の危うさ
ギギは無邪気だ。
だが無知ではない。
分かっていないふりができる。
それが一番怖い。
彼女の言葉は、刃物のように鋭くない。
だが、じわじわ効く。
理屈より感情。
正義より共感。
ハサウェイが最も欲しかったものを、彼女は差し出してくる。
映像は静かに狂っている
戦闘シーンは派手だ。
だが、爽快感はない。
重力がある。
痛みがある。
死が近い。
モビルスーツは兵器であり、希望ではない。
この描写が徹底している。
光の演出。
夜の色。
都市の質感。
すべてが現実に寄っている。
監督と制作陣の異様な本気
監督は村瀬修功。
映像設計の時点で、覚悟が違う。
説明を省く。
テンポを落とす。
観客を信じる。
これは簡単な選択ではない。
だが、この物語には必要だった。
原作である富野由悠季の思想が、丁寧に噛み砕かれている。
音楽が語る沈黙
音楽は主張しすぎない。
だが、感情を逃さない。
戦闘中の緊張感。
静かな会話の裏に流れる不安。
旋律は少ない。
その分、重い。
耳に残るというより、体に残る音だ。
この物語は分かりにくいのか
よく言われる。
難しい。
分かりづらい。
だが、本当にそうだろうか。
説明されないだけだ。
感情は、むしろ直球だ。
正しさが暴力に変わる瞬間。
誰かを守るために、誰かを切り捨てる矛盾。
それは、現実世界と地続きだ。
ガンダムを知らなくても見られるのか
過去作の知識はあった方がいい。
だが必須ではない。
この作品は、思想映画として成立している。
ロボットは象徴に過ぎない。
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個人的な偏見と感想
この映画を見て、スッキリする人は少ない。
答えも出ない。
だが、それでいい。
ハサウェイは間違っているかもしれない。
それでも、何もしないよりはましだと思ってしまう。
その感覚が残る。
正義を叫ぶより、覚悟を問う映画。
私はそう受け取った。
あなたはどうだろうか。
それでも行動する側に立つだろうか。
機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ キルケーの魔女。
これは未来の物語ではない。
今を生きる大人のための、重たい寓話である。