映画『ドールハウス』レビュー|矢口史靖が挑む、恐怖と再生の家族ドラマ

『ウォーターボーイズ』『スウィングガールズ』など数々のヒット作を世に送り出してきた矢口史靖監督が、キャリア初となる本格ホラーミステリーに挑んだ映画『ドールハウス』。

2025年6月13日に公開された本作は、ただの“人形ホラー”ではありません。

それは、喪失と執着、そして再生をめぐる“人間の物語”です。

主演・長澤まさみの熱演を軸に、家族の形を問う衝撃と感動の110分間が展開されます。


作品情報

  • 公開日:2025年6月13日(金)
  • 監督・脚本・原案:矢口史靖
  • 上映時間:110分
  • 配給:東宝
  • ジャンル:ホラー/ミステリー/人間ドラマ

あらすじ(ネタバレなし)

ある事故で最愛の娘・芽衣を失った主婦・鈴木佳恵(長澤まさみ)。

深い喪失感に沈む日々の中、ある骨董市で見つけたのは、亡き娘に瓜二つの人形だった。

「この子がいてくれれば…」

そう語りかけるように人形を可愛がる佳恵。だが、第二子・真衣の誕生を機に、彼女の周囲では不可解な出来事が次々と起こり始める。

戻しても戻しても“帰ってくる”人形。夜中に動く気配。誰もいないはずの部屋での物音。

母親としての愛と罪、過去と未来の交錯の中で、佳恵は“その人形が何者なのか”を知るため、ある決断を下す。


監督・矢口史靖が初めて描いた「恐怖」の正体

“元気でポップな青春映画”を撮り続けてきた矢口監督が、あえて挑んだジャンルはホラーミステリー。

しかし本作は、単なる恐怖体験ではありません。

矢口監督が真正面から描いたのは、「母親の心の闇」と「人形に投影される記憶と願い」。

学生時代に自主制作で怪談映像を作っていた経験を持つ矢口監督。

その原点回帰とも言える『ドールハウス』は、緻密に構成された脚本と、絶妙な間の演出で観客の想像力を刺激し、“視えないものの怖さ”をじわじわと描き出します。


キャストが体現する「喪失と再生」

長澤まさみ(鈴木佳恵)

本作の核を担う演技。

母としての優しさ、怒り、そして狂気のギリギリを絶妙なバランスで表現。

セリフよりも、目線、沈黙、体のこわばりで“崩れていく心”を演じ切っている。

瀬戸康史(忠彦)

妻の変化を目の当たりにしながらも信じようとする夫役。

普通であろうとする姿が切なく、ラストへの伏線としても重要な存在。

田中哲司(呪禁師・神田)

不気味さと安定感を兼ね備えた存在。民間信仰を匂わせる演出で、現実と異界の境目を曖昧にする。

風吹ジュン(姑・敏子)

家族の中で唯一“人形の異変”に気づいていた人物。祖母という立場から語られる言葉に重みが宿る。


映像と演出|“静けさ”で生まれる恐怖

  • 人形の質感と存在感:実在の骨董人形をモデルに制作され、瞳や髪の細部までリアル。画面に映るだけで不穏な空気を生み出す。
  • カメラワーク:一貫して“家庭内のリアルな目線”で展開。定点、俯瞰、奥行きを活かし、観客を“同居者”にしてしまうような没入感。
  • 音響と無音:あえて音を消し、“無音”で演出するシーンが複数存在。鼓動と息づかいだけが聞こえる時間は、恐怖ではなく“心の底の孤独”を感じさせる。

『家族ホラー』としての深み

『ドールハウス』は、人形を題材にしたホラーでありながら、その本質は「家族の物語」です。

  • 娘を失った悲しみ
  • 次女を受け入れきれない葛藤
  • 許されない愛のかたち
  • 家族の中にある“見て見ぬふり”

こうしたテーマが、ジャンルに頼らない演出で丁寧に描かれていることで、観終わったあとに「怖かった」よりも「胸が痛い」「考えさせられた」という感想が残ります。


観客の声と反響

「怖いのに泣いた。矢口監督にこんな一面があったとは」

「長澤まさみが凄すぎる。台詞がない場面ほど刺さる」

「人形が怖い。でも、それ以上に“自分が怖い”と思わせる映画」

「家族を題材にしたホラーとして傑作。怖さより切なさが残る」

特に女性観客の共感と評価が高く、子育て世代や“家族の変化”を経験した層からの支持が強いのも特徴です。


まとめ|“心の喪失”に触れたとき、あなたはどうする?

『ドールハウス』は、ジャンルとしてはホラーかもしれませんが、

その実体は“母という存在の葛藤”と“記憶にしがみつく者たちの物語”です。

怖いのに目が離せない。

哀しいのに泣けない。

それでも、最後に残るのは確かな感情。

矢口史靖がキャリアの中で最も“静かで深い作品”を生み出したことに、多くの人が驚かされるでしょう。

ぜひ劇場で、“その人形”と目を合わせてください。

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