28年後… 白骨の神殿 感想と偏愛考察 恐怖が信仰に化ける瞬間が一番ゾッとする

28年後… 白骨の神殿 感想と偏愛考察 恐怖が信仰に化ける瞬間が一番ゾッとする

ゾンビ映画だと思って席に座ると、別の扉が開きます。

しかも鍵は内側から掛かっている。

映画「28年後… 白骨の神殿」は、感染者の恐怖を更新しつつ、人間が作る地獄をさらに丁寧に煮詰めてきました。走る感染者で世界を変えたシリーズが、今度は「信仰」という厄介な道具を持ち出す。ここが面白い。怖い。気持ち悪い。褒めています。

何が怖いって、怪物より人間が整然としているところです。祈りの形をしているのに、やっていることは暴力。しかも本人たちは真顔で善行のつもり。こういうの、現実にもある。だから効く。

タイトルの「白骨の神殿」。言葉だけで肌がひやっとするのに、画面になると笑えない。神殿は救いの場所のはずなのに、ここでは骨が柱になる。骨で柱を立てる国に観光は行きたくないけど、映画としては最高の舞台です。

28年後… 白骨の神殿とはどんな作品か

舞台はウイルス災厄後のイギリス。生き残りは島に集まり、海が最後のバリケードになっていた。前作で少年スパイクは生き延びる知恵を学び、母を看取った。そこまでは悲しいけど筋が通っている。

ところが本作で彼は、本土で出会う「救いっぽいもの」に手を伸ばす。カルト集団ジミーズ。全員金髪。やけに統一感がある。危険な集団ほどユニフォームが好きだ。ここ、覚えておくと人生に役立つかもしれません。

救助されたと思ったら、別の檻だった。スパイクはそこで、生存のロジックではなく、支配のロジックに巻き込まれていきます。感染者が怖いのは当然として、感染していない人間の方が「話が通じない」恐怖を出してくる。こういうホラー、強い。

監督ニア・ダコスタが見せる「恐怖の設計図」

本作の監督はニア・ダコスタ。手つきがうまい。怖がらせ方が派手というより、陰湿に正確です。

観客の目線を少しだけズラす。安心できそうな会話の途中で、空気を冷たくする。音の余白を作って、心臓に小さな針を刺す。そんな演出が多い。

戦いの場面もあるのに、アクションのカタルシスを簡単には渡してくれません。勝った気がしない。助かった気がしない。なのに次の場面が気になる。いやな中毒性です。

そして本作は妙に笑える瞬間も混ぜてくる。ホラーに笑いを入れるのは難しい。入れ方を間違えると安っぽくなる。でも「白骨の神殿」は笑いが笑いで終わらない。笑った直後に、背筋が寒くなる。観客を信用していないのではなく、観客の油断を信用している感じ。ずるい。

主演俳優たちの顔が語る 疲労と狂気と優しさ

このシリーズって、派手な決め台詞より、顔なんですよね。

疲れた目。乾いた唇。言葉にできない後悔。

レイフ・ファインズが演じる医師ケルソンの不穏な慈悲

本作で強烈に存在感を放つのが、レイフ・ファインズ演じるドクター・イアン・ケルソン。

彼は共感できる瞬間がある。なのに怖い。優しさが一枚の薄い膜で、その下に別の衝動が見える。こういう役をファインズがやると、もう勝ちです。

彼が物語の中で担うのは「科学」だけじゃない。信仰と暴力の間で、ぎりぎり人間を保とうとする役割だ。本人は保っているつもり。でも外から見ると、かなり危うい。危うさが魅力になっている。困る。

ジャック・オコンネルが作る「悪のカリスマ」ジミー・クリスタル

ジミーズを率いるジミー・クリスタルを演じるのはジャック・オコンネル。目が怖い。声が軽いのに、発言の中身が重い。こういう人、近くにいたら絶対に距離を取ります。

彼は単純な悪役ではない。狂気に理由っぽいものが匂う。過去の傷、孤独、承認欲求。そういうものが混ざって、信者を作るカリスマになる。嫌なリアリティがある。

ここで質問です。あなたは「正しさ」を語る人と「楽しさ」を語る人、どちらに付いていきやすいですか。ジミーは後者を武器にしてくる。しかも残酷さ込みで。

スパイクの成長が明るくないのに目が離せない

スパイクは少年から青年へ向かう。だが成長が爽やかじゃない。むしろ汚れる。迷う。間違える。だからこそリアルです。

ホラーで主人公が賢すぎると退屈になる。スパイクは賢いのに、環境がそれ以上に不吉で、選択肢がどれも地獄。そこで出る判断の揺れが、観客の胃に来る。

白骨の神殿という舞台が示すもの 祈りの皮をかぶった支配

神殿は本来、共同体の中心です。集まる場所。祈る場所。分かち合う場所。

でも本作の神殿は違う。骨が積み上がっていて、美術としては惚れ惚れするのに、倫理としては吐き気がする。

骨は過去の死者の証拠。積むほど歴史になる。そこに信仰が乗ると、死が正当化される。これが怖い。感染者に襲われて死ぬのは「事故」っぽく見える。だが信仰に殺されるのは「選択」だ。しかも集団の選択。重い。

白骨で建てる神殿は、言ってみれば恐怖の記念碑です。恐怖を可視化し、崇め、運用する装置。ホラーが好きな人ほど、こういう装置に弱い。仕組みが見えるから。

音楽が怖さを倍増させる そして急にメタルが来る

ホラーは音が半分です。映像が怖いのはもちろん。でも耳が逃げられないから、音が効く。

本作の象徴的な場面として語られているのが、アイアン・メイデンの「The Number of the Beast」を用いた衝撃的なシークエンス。

あの曲を、あの状況で、あの目的で使う。どうかしている。褒めています。

曲が鳴った瞬間、空気が変わる。恐怖が宗教儀式になって、観客の感情が置き去りになる。音楽が場面を盛り上げるのではなく、場面を地獄に変換している。

そして劇伴は基本的に派手すぎない。だからこそ、曲が立ち上がる瞬間が刺さる。静けさを溜めて、爆音で殴る。殴り方が上品ではないのに、映画としては洗練されている。矛盾が気持ちいい。

あなたはホラー映画で「この曲、今かけるのかよ」と笑ってしまったことがありますか。でも笑っている場合じゃない。そこから先が本番だったりする。

裏側の話が面白い 火の輪と骨の塔とリップシンク

裏側を知ると、嫌な意味で納得する場面が多い。

白骨の神殿は美術が勝負です。骨の造形、空間の構成、炎の扱い、群衆の動き。どれか一つが雑だと、ただの悪趣味になる。だが本作は悪趣味の一歩手前で踏みとどまり、芸術っぽい不快感を作っている。

話題のシーンでは、ケルソンが命懸けのリップシンクを披露する。炎、群衆、化粧、骨の装飾。全部がやりすぎなのに、物語の中では筋が通る。筋が通ってしまうのが恐ろしい。現実のカルトだって、外から見ると滑稽で、内側では神聖だったりする。

制作側はこの場面の安全面や撮影手法にもかなり気を使ったらしい。火を扱うだけで撮影は面倒になる。ドローンやクレーン、複数のリグを使って立体的に撮る。そうやって作った「盛大な地獄」。観客はありがたく震えればいい。

シリーズファン向けの楽しみ方 28日後と28週後の影が刺さる

「28日後…」が生んだのは、走る感染者というアイコンだけではありません。

崩壊した都市の寂しさ。誰もいない道路の不自然さ。文明が抜け落ちた世界の冷えた匂い。

「白骨の神殿」はその系譜を継ぎつつ、崩壊後の社会の形を一段深く掘っています。感染者がいるから社会が壊れた。そこまでは分かりやすい。でも壊れた後、人は何を組み立てるのか。何を信じるのか。ここが本作の怖さ。

「28週後…」が描いた軍事と隔離の失敗も思い出す。あれはシステムが壊れるホラーだった。本作は心が壊れるホラーだ。だから後味がしつこい。

アニメ好きにも刺さるポイント 人間の群れが作るルールの怖さ

アニメが好きな人は、世界観のルールが変質する瞬間に弱い。

この作品はまさにそれです。感染者がいる世界のルールに、信仰というルールが上書きされる。すると暴力が儀式になる。恐怖が文化になる。これ、ダークファンタジーの王道です。

例えば、終末世界の共同体が独自の掟を持ち、外部の人間を裁く。そういう展開にピンと来るなら、本作のジミーズはかなり刺さるはず。現代ホラーの顔をしているのに、やっていることは宗教国家の建国に近い。

ホラーとアニメの距離は意外と近い。どちらも「当たり前」が壊れる瞬間を描くからです。

好き嫌いが割れるところも正直に言う

本作は観客に親切ではありません。

説明を省く。気持ちよく勝たせない。救いをチラつかせて引っ込める。

だから、テンポよく感染者を倒す爽快ホラーを期待するとズレるかもしれない。だがズレた先にあるのが、この作品の味です。ゾンビ映画の顔を借りた「人間の儀式」映画。これが刺さる人は、とことん刺さる。

僕はこういう不親切さが好きだ。だって観客を甘やかさないから。甘やかされたい夜もあるけど、これを見る夜は違う。

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  • 新感染 ファイナル・エクスプレス 密室と疾走で呼吸ができない

シリーズの源流をたどるなら

  • 28日後… 走る恐怖の発明品
  • 28週後… 隔離と軍事の地獄

白骨の神殿は、見た目の派手さだけの映画ではありません。

恐怖が形になり、形が信仰になり、信仰が暴力を正当化していく。その流れが気持ち悪いほど滑らか。

そしてその滑らかさが、現実のどこかに似ている。

怖いですよね。だから見たくなる。そういう作品です。

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