【徹底解説】Netflix映画『フランケンシュタイン』ギレルモ・デル・トロが怪物に託した「親と子」と「創造主の罪」

はじめに

ホラーじゃない「フランケンシュタイン」が、いちばん怖い

Netflix映画『フランケンシュタイン』は、

「怪物が怖い映画」ではなく

「怪物を作った人間がいちばん怖い映画」だ。

監督はギレルモ・デル・トロ。

『パンズ・ラビリンス』『シェイプ・オブ・ウォーター』『ナイトメア・アリー』といった

ダークファンタジーを手がけてきた巨匠が、

ついに長年の悲願だったメアリー・シェリー原作『フランケンシュタイン』をNetflixで映画化した。

本作は

・2025年8月 ベネチア国際映画祭 コンペティション部門でワールドプレミア

・10月17日から一部劇場で限定公開(35mm・IMAX上映も実施)

・11月7日からNetflixで全世界配信

という流れで公開された。

アップデートされたポイントは山ほどあるが、

ざっくり言えば

・時代設定は19世紀半ば、クリミア戦争の影が落ちるヨーロッパ

・ヴィクター・フランケンシュタインは「傲慢な天才外科医」

・怪物は“縫い傷だらけのゾンビ”ではなく、

 「美しいが、どこか壊れた彫像」のような存在

そして何より、

デル・トロ自身が「これはホラーではなく、とてもパーソナルでエモーショナルな物語だ」と語るように、

この映画の真のテーマは“モンスターの心”と“父と子の呪い”にある。

この記事では、映画好き・エンタメ好き・アニメ好きの読者に向けて

・作品の基本情報とあらすじ

・キャスト・キャラクターの魅力

・映像美・美術・音楽など「デル・トロらしさ」全開のポイント

・原作との違いと共通点

・制作の裏側(30年越しの企画、怪物デザインのこだわり)

・この映画が好きなら絶対チェックしてほしい関連作

までを、ネタバレはほどほどに、

でもしっかり“中身”に踏み込んで解説していく。


作品基本情報

Netflix版『フランケンシュタイン』はどんな映画?

タイトル:Frankenstein(フランケンシュタイン)

監督・脚本・製作:ギレルモ・デル・トロ

配信:Netflixオリジナル映画

上映時間:約150分(2時間32分)

制作費:約1億2000万ドル級の大作

キャスト(主要)

・オスカー・アイザック:ヴィクター・フランケンシュタイン

・ジェイコブ・エロルディ:クリーチャー(怪物)

・ミア・ゴス:エリザベス ほか

・クリストフ・ヴァルツ:ハーランダー(デル・トロオリジナルの登場人物)

・チャールズ・ダンス、ラース・ミケルセン、デヴィッド・ブラッドリー、

 クリスチャン・コンヴェリー、フェリックス・カマーラー などが脇を固める。

原作:メアリー・シェリー『フランケンシュタイン あるいは現代のプロメテウス』(1818)

ジャンル:ゴシックドラマ/ダークファンタジー(“純粋なホラー”ではない)

舞台は19世紀半ばのヨーロッパ。

クリミア戦争で荒れた世界の中、

死の山から「新しい命」を作り出そうとする科学者と、

その犠牲として生まれてしまった怪物の物語が展開する。


あらすじ(序盤だけネタバレ)

映画は、メアリー・シェリー原作と同じく「北極の船」のシークエンスから始まる。

氷に閉ざされた航路を進むデンマーク海軍の艦船ホリゾント号。

そこに瀕死の男が回収される。

名はヴィクター・フランケンシュタイン。

まもなく、船は謎の“何か”に襲われる。

それは、ヴィクターをしつこく追い続ける巨大な影──クリーチャーだ。

「彼を渡せ。彼は僕の創造主だ」

怪物はそう告げ、静かに、しかし圧倒的な存在感で甲板に立つ。

そして、ヴィクターは自分と怪物の関係を

“告白”するように語り始める。

・母の死、父との不和

・死を克服しようとする病的な執念

・戦場の死体を材料にした“創造の実験”

・そして、産み落とした存在への拒絶と逃亡

物語は、ヴィクターの回想と、

やがて怪物自身の視点を通じて、

「創造」と「見捨てられた子」の悲劇を描いていく。

ここから先は、ぜひ本編で味わってほしい。

ただひとつ言えるのは、

“有名な話だからどうせ知ってる”と思って観ると、

感情の揺さぶられ方がいい意味で裏切られる、ということだ。


怪物はなぜ「こんな顔」なのか

ジェイコブ・エロルディ版クリーチャーのデザイン

Netflix版『フランケンシュタイン』で、

映画ファンがまず驚くのは怪物のビジュアルだろう。

・首のボルトなし

・額に整然とした縫い目もなし

・いわゆる「ユニバーサル版の緑のフランケンシュタイン」とは完全に別物

デル・トロは

「対称的な縫い傷や金属のクランプはつけない」

「交通事故の被害者のようではなく、

 “生まれたばかりの、美しいもの”として見せたかった」

と語っている。

そこで選んだイメージが

“アルバスター(大理石)の彫像”。

戦場のバラバラの死体を「一つの身体」に再構築した結果、

どこか完璧で、どこか不自然な“美しさ”を持った存在になっている。

メイクと造形を手がけたのは、

デル・トロ作品常連のクリーチャーデザイナー、マイク・ヒル。

・顔と体のパーツがジグソーパズルのようにつながる

・皮膚は血の気を失った石膏のよう

・しかし瞳と仕草は、傷ついた子どものように繊細

という、“グロテスクなのに気品がある”絶妙なラインを実現している。

しかも、もともと怪物役はアンドリュー・ガーフィールドが演じる予定だったが、

ストライキの影響で降板となり、

代わりにジェイコブ・エロルディが起用されたため、

たった9週間で全デザインを作り直したというから、

執念のレベルが違う。


ギレルモ・デル・トロの「30年越しの夢」

なぜここまでフランケンシュタインにこだわったのか

実は、デル・トロが『フランケンシュタイン』を撮りたいと言い始めたのは2000年代初頭どころか、

インタビューによっては「50年間ずっと夢だった」と冗談交じりに語っているほどの“ライフワーク案件”だ。

・2007年ごろから企画を温め、コンセプトアートを描き続ける

・何度も企画が立ち上がっては頓挫

・『ピノキオ』(2022)の成功を受け、NetflixがついにGOサイン

・台本・デザインに何年もかけ、2024年に撮影開始

彼が執筆中に読み込んでいたのは

原作小説だけでなく、ジョン・ミルトン『失楽園』などの宗教・神話的テキスト。

デル・トロは言う。

「普遍的な神話は、フランケンシュタインでも、ドラキュラでも、ピノキオでも、

 “原作にどれだけ忠実か”ではなく、

 どれだけ誠実に、自分の魂を込めて語れるかで決まる」

つまり彼にとって、この映画は

「メアリー・シェリーの完全コピー」ではなく、

自分の全作品の要素を集約した“ギレルモ版フランケンシュタイン宇宙”なのだ。

実際、映画を観ると

・『パンズ・ラビリンス』の子どもの視点と残酷さ

・『クリムゾン・ピーク』のゴシックロマンス

・『シェイプ・オブ・ウォーター』の“怪物への共感”

・『クロノス』のメタフィジカル(形而上学的)な問い

などが、見事に再構成されている。


映像美・美術・撮影

「手作業の映画」をNetflixに持ち込んだ執念

『フランケンシュタイン』を語るうえで欠かせないのが、その“手触り”だ。

・巨大な円形の窓を持つ塔のラボ

・氷に閉ざされた北極の船

・ろうそくとガス灯が照らす石造りの屋敷

・雪に埋もれた墓地、ぬかるんだ戦場

どのシーンを切り取っても、一枚の絵画のような密度がある。

これは、

・美術:タマラ・デヴェレル

・撮影:ダン・ローステン

・衣装:ケイト・ホーリー

という、デル・トロ作品常連チームが総結集しているからこそ。

特にラボは、スコットランドの塔を模した360度セットを組み、

そこに実物大の機械・タンク・配線をぎっしり詰め込んだ“物理セット”。

・グリーンバックやCG合成に頼らない

・俳優が本当にそこに立ち、機械に触れられる

・光と影が「本物の空間」で生まれる

という、今では贅沢とも言える手法を取っている。

音楽はアレクサンドル・デスプラ。

バイオリンを中心としたテーマで、怪物の孤独と優しさをすくい上げる。

Netflix配信作品でありながら、

「これはできれば映画館の大きな画面で観てほしい…」と

思わずため息が出るような、贅沢な“古き良き映画のつくり方”をしている点もポイントだ。


原作との違いと、あえて残したもの

原作『フランケンシュタイン』は、実はかなり文学的で難しく、

・手紙形式の入れ子構造

・怪物が自分の生い立ちを長々と語る

・哲学・神学的な独白多め

という、今の映画文法とそのまま合わせるのが難しい構造になっている。

デル・トロ版はここをうまく“翻訳”している。

・北極の船 → 映画の導入とフレームとしてそのまま採用

・ヴィクターの回想 → 船上での「語り」として整理

・怪物の視点 → 台詞と行動、表情、音楽でじわじわ伝える

一方で、大胆に変えているところも多い。

・時代をクリミア戦争期に寄せ、戦場の死体というモチーフを強化

・ハーランダーなど、武器商人・権力者キャラを追加し、

 「戦争ビジネス」と「命の値段」を絡める

・怪物のビジュアルを“縫い傷だらけの怪物”から“彫像のような存在”へ再解釈

その結果、

「原作ファンから見て100%忠実か?」と問われれば、答えはNO。

だが、批評家からは

「シェリーの精神にはとても忠実」

「デル・トロのフィルモグラフィを総括するような一本」と高く評価されている。


テーマ解説

怪物の物語であり、「父親」の物語

Netflix版『フランケンシュタイン』を観終わって強く残るのは、

“父と子”の物語としての側面だ。

・ヴィクターの父とヴィクター

・ヴィクターと怪物

・怪物と、彼が一瞬だけ触れ合う「人間の家族」

デル・トロは長年、

「モンスターに感情移入させる」作家としてシンパシーを集めてきたが、

今回はそれをさらに一歩進めている。

・生み出した存在に責任を取らない父

・愛されることを知らない子

・その連鎖が新たな暴力と悲劇を生む

この構図は、親子だけでなく、

「創作者と作品」「権力者と市民」「神と人間」にも重ねて読むことができる。

怪物は、“ただのモンスター”ではない。

・自分がなぜ生まれたのか分からない

・生きる理由も、居場所も与えられていない

・それでも誰かに愛されたくて、拒絶されて、壊れていく

その姿は、

誰かに“つくられたルール”の中で生きるしかない私たち自身と、

どこか重なって見えるはずだ。


映画からの“学び”

ホラーとしてではなく、現代劇として観る

『フランケンシュタイン』から受け取れるメッセージを、あえて3つに絞るなら──

  1. 創ったものに責任を持てるか  子ども、部下、作品、サービス、AI…。  「自分が生み出したもの」に対して、  どこまで責任を負う覚悟があるのか。
  2. “怪物”を作るのは誰か  社会の外に追い出された存在を、  「危険だ」「気味が悪い」と遠ざけるたびに、  私たちは自分たちで怪物を生み出しているのかもしれない。
  3. 孤独をどう埋めるか  怪物が求めているのは復讐だけではなく、認識されること、対話されること。  それは、スマホ越しにしか人とつながれない現代の孤独にも響いてくる。

ホラー映画としてビビりながら観るのもアリだが、

「これはめちゃくちゃ濃厚なヒューマンドラマだ」と思って観ると、

ラストの余韻がまったく変わってくるはずだ。


こんな人におすすめ

Netflix版『フランケンシュタイン』が刺さるタイプ

・ダークファンタジーが好き

・『パンズ・ラビリンス』『シェイプ・オブ・ウォーター』に刺さった

・怪物より人間のほうが怖い映画が好き

・美術・衣装・セットの作り込みをじっくり眺めたい

・古典の新解釈が好き(原作と見比べてニヤニヤしたい)

逆に、

「とにかくジャンプスケアで驚かせてくるホラー」を期待すると、

いい意味で肩透かしを食らう。

本作は“怖さ”よりも“苦さ”と“切なさ”で殴ってくるタイプの作品だ。


この映画が好きならおすすめの作品

最後に、『Netflix フランケンシュタイン』を堪能した人に勧めたい関連作をいくつか。

同じデル・トロ作品

・パンズ・ラビリンス

 内戦下スペインの少女と怪物たちの物語。

 残酷な現実と幻想が交錯する、デル・トロ最高傑作の一つ。

・シェイプ・オブ・ウォーター

 “怪物と人間の恋”を描いたアカデミー作品賞受賞作。

怪物側に寄り添う視点は『フランケンシュタイン』と地続き。

・クリムゾン・ピーク

 ゴシックロマンス×幽霊屋敷。

 衣装・美術の豪華さが、今回の『フランケンシュタイン』と兄弟レベル。

フランケンシュタイン系

・フランケンシュタイン(1931/ユニバーサル)

 あの「ボルト付き怪物」の元祖。

 デル・トロ版と見比べると、デザイン哲学の違いが楽しい。

・ブライド・オブ・フランケンシュタイン(1935)

 続編にして傑作。宗教画のような構図と奇妙なユーモアは、

 デル・トロにも確実に影響を与えている。

・メアリー・シェリーのフランケンシュタイン(1994)

 ケネス・ブラナー監督・主演、ロバート・デ・ニーロが怪物を演じたバージョン。

 原作への忠実さではこちらもかなり本気。

Netflixで観られる近いテイストの作品

・ギレルモ・デル・トロの驚異の部屋(Netflixオムニバス)

・ギレルモ・デル・トロのピノッキオ

・ミッドナイト・マス

・ザ・ホール・オブ・ザ・ハウス・オブ・アッシャー(ポー原作の現代ホラー)

どれも“怪物とは何か”“罪とは何か”を問いかける作品で、

『フランケンシュタイン』の余韻をじっくりと味わい続けたい人にぴったりだ。


まとめ

「怪物の物語」を観に行ったら、「人間の物語」で殴られる一本

Netflix映画『フランケンシュタイン』は、

・30年以上温められてきたデル・トロの夢の企画

・戦場と家族の呪いが生み出した“美しい怪物”

・ゴシックロマンスとダークファンタジーの集大成

という、とんでもなく濃い一作だ。

・オスカー・アイザックが演じる狂気と繊細さを併せ持つヴィクター

・ジェイコブ・エロルディが体現する、“可哀想でしかない”怪物

・ミア・ゴスやクリストフ・ヴァルツらが醸し出す、不穏で官能的な世界観

そこに、手作業で作り込まれたセットと衣装、

デスプラのエモーショナルなスコアが乗り、

クラシックでありながら、ものすごく今っぽい“フランケンシュタイン像”が立ち上がっている。

「フランケンシュタインなんて、もう何度も映画になってるし…」と思っている人ほど、

ぜひ一度、Netflixで再生ボタンを押してほしい。

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