はじめに:炎上気味続編を、ちゃんと語ろう
2018年公開の『ザ・プレデター』(The Predator)。
- 監督は初代『プレデター』にも出演していたシェーン・ブラック。
- キャストはボイド・ホルブルック、オリヴィア・マン、トレヴァンテ・ローズ、キーヒガン=マイケル・キー、スターリング・K・ブラウン、ジェイコブ・トレンブレイなど実力派揃い。
- 「シリーズを再定義する」「原点をアップデートする」と宣言した大作。
- 結果:評価は賛否どころか「否」が強め、興行も伸び悩み。
ではこれは「失敗作」なのか。
それとも「惜しい迷走作」なのか。
あるいは「ツッコミどころ込みで楽しむファンムービー」なのか。
この記事では、世界一うるさい映画好き目線で、
- 作品の魅力と問題点をバッサリ整理
- プレデターシリーズ的な位置付け
- 裏側で何が起きていたのか
- 映画好き・エンタメ好き・アニメ好きがこの作品から“学べる”ポイント
- 「この映画が好きならコレを観ろ」的な関連作ガイド
まで、読みやすく、ちょっとユーモアを添えつつ、SEOも意識した形で徹底解説します。
作品概要:シェーン・ブラックが預かった「看板IP」の結果
まずは基本情報から。
『ザ・プレデター』は、2018年公開のアメリカ製SFアクション映画。
- 監督・脚本:シェーン・ブラック
- 脚本:フレッド・デッカー(『モンスター・スクワッド』コンビ再び)
- 出演:
- ボイド・ホルブルック(元特殊部隊の主人公クイン)
- オリヴィア・マン(進化生物学者ケイシー)
- トレヴァンテ・ローズ
- キーガン=マイケル・キー
- スターリング・K・ブラウン
- ジェイコブ・トレンブレイ(自閉スペクトラム特性を持つ少年ロリー)
- 位置付け:『プレデター2』と『プレデターズ』の間あたりに位置する続編として扱われる設定。
- 予算:約8800万ドル
- 全世界興行収入:約1億6050万ドル(数字だけ見るとギリ赤字圏内の微妙ライン)。
コンセプトは野心的でした。
- プレデターの「遺伝子改造」設定でアップグレード
- 宇宙と地球のハイブリッドSFアクション
- シェーン・ブラック節の軽妙な掛け合いとチームムービー
- フランチャイズ展開を狙ったラストの“プレデター・キラー”
紙の上では、かなりおいしい企画です。
問題は、それが編集・再撮影・スタジオ判断によって「とっ散らかった最終形」に変わってしまったこと。
でも、そのカオスを分解して見ると、実は学びどころも、光るポイントも多い一本なのです。
ストーリーの骨組み:要約すると「騒がしい地球サンドボックス」
ネタバレは最小限に抑えつつ、構造だけ押さえます。
- 宇宙でプレデター同士の戦闘。小型船が地球に墜落。
- 軍の狙撃兵クインがプレデターと遭遇し、その装備を郵送で自宅に送ってしまう。
- 荷物は息子ロリーの手に渡る。彼は高度な理解力で装備を起動。
- 政府組織「スターゲイザー」が暗躍。進化生物学者ケイシーがプレデター研究に巻き込まれる。
- プレデターが覚醒して大暴れ。なぜか「ある目的」のために行動していることが判明。
- クイン+精神的に問題ありとされる軍人チーム+ケイシー+ロリーが、巨大な“アルティメット・プレデター”との戦いに巻き込まれていく。
ジャンルとしては、
- モンスターパニック
- 軍隊アクション
- 家族ドラマ
- ブラックコメディ
- ヒーロー映画の予告編みたいなラスト
が全部一皿に乗った幕の内弁当状態。
この「詰め込み感」と「トーンのブレ」が、評価を分ける最大のポイントです。
良いところもちゃんと言う:『ザ・プレデター』の魅力
1. シェーン・ブラック節のテンポと掛け合いはやっぱり面白い
本作最大の長所は、キャラクター同士の会話です。
- 軍人チーム「ルーニーズ」の悪ノリ会話
- PTSD、罪悪感、トラウマをブラックジョークでごまかす男たち
- ケイシーの真顔ツッコミ
セリフのテンポだけ切り取ると、これは完全にシェーン・ブラック作品。
『リーサル・ウェポン』『キスキス,バンバン』『ナイスガイズ!』の系譜がちゃんと流れていて、「このノリが好きなら割と楽しい」のは事実です。
特に、B級感のあるガヤ台詞や、小ネタを飛ばしながら進む中盤まではテンポ良く観られます。
2. キャスティングはかなり豪華でキャラ立ちも悪くない
- トレヴァンテ・ローズの渋い存在感
- キーガン=マイケル・キーとトーマス・ジェーンの掛け合い
- スターリング・K・ブラウンのイヤな役を楽しんでいる感
- ジェイコブ・トレンブレイの繊細さ
個々の役者の魅力は濃く、それぞれが「もう一段深掘りされていれば名キャラだった」ポテンシャルを持っています。
編集でごっそり削られた影響もあり、「良い素材を雑に混ぜた感じ」にはなっているものの、俳優を眺める楽しみはちゃんとある。
3. アクションとゴアはしっかり“プレデター映画”
- ラボ脱出シーンの無双
- 森林、夜間、ラボ内、郊外住宅地とロケーションのバリエーション
- プレデターの容赦ないキル描写
R指定寄りのバイオレンスとプレデターのフィジカルな強さは、きちんと画面に刻まれています。特に前半のラボ乱戦は、プレデター映画らしい高揚感があります。
問題点もしっかり見る:なぜ「微妙」と言われるのか
1. トーンがブレすぎる
- シリアスなSFホラー
- 軽いギャグアクション
- 家族ドラマ
- フランチャイズ全開のヒーロー路線
これらが一作の中で殴り合っており、結果として「何を一番見せたい映画なのか」が伝わりにくくなっています。
プレデターは本来「恐ろしくてかっこいい狩人」ですが、本作では
- かっこいい
- ちょっと間抜けに扱われる時もある
- 設定が説明されすぎる
ことで、神話性が薄まってしまった印象があります。
2. 遺伝子改造設定と“自閉症=進化論”問題
本作では、
- プレデターが他種族のDNAを取り込み進化している
- ロリーの自閉スペクトラム特性を「人類の次の進化」として扱う
といった描写があり、これが批判の対象になりました。
SFアイデアとして雑に処理されてしまった結果、
「障害や多様性を安易な超能力扱いしていないか」
という倫理的な違和感につながり、テーマ面での評価を下げています。
3. 編集と再撮影による“つぎはぎ感”
公開後のインタビュー等で明らかになっている通り、本作は大規模な再撮影と編集のやり直しを経ています。
- ラストの展開やトーンが大きく変更
- 伏線だけ残って回収されない要素
- キャラクターの心情変化が唐突
「面白くなりそうな要素を詰め込んだのに、最終調理で味がぼやけたカレー」のような状態で、惜しさがにじむ一本になってしまいました。
裏側の話:知っておくと見え方が変わる制作秘話
1. シェーン・ブラック起用の期待とプレッシャー
シェーン・ブラックは初代『プレデター』に俳優として参加しており、その縁から監督に抜擢。
彼の強みは「男同士の掛け合い」と「軽妙な暴力コメディ」です。スタジオも「このノリでプレデターを再起動してほしい」と期待していたとされます。
ただ、結果として
- ホラー寄りの恐怖
- 軽口の多いアクション
が噛み合い切らず、中途半端な印象になったのは不幸なミスマッチと言えます。
2. オリヴィア・マンが告発したキャスティング問題
本作では、監督の友人で性犯罪歴のある俳優が小さな役で起用されていたことが、公開直前に明るみに出ました。オリヴィア・マンがこの件を指摘し、該当シーンは削除。スタジオ対応や共演者の反応も含めて大きな論争となり、作品イメージにも影響を与えました。
これは「作品と現場倫理」「IPと制作体制」を考える上で、避けて通れない出来事です。
3. アーノルドのカメオは実現せず
ファンが期待していたダッチ再登場案も存在しましたが、提示された役割が小さかったことなどから、アーノルド・シュワルツェネッガーは参加を見送り。
もし彼が登場していたら、評価はどう変わっていたのか。そこも一つの“if物語”として語り継がれています。
学びポイント:『ザ・プレデター』から見える「シリーズ運営の難しさ」
少し真面目な話をすると、この映画はエンタメビジネスと物語づくりの教材として非常に示唆に富んでいます。
1. IPを「盛りすぎる」と神話性が割れる
- プレデターの進化
- 遺伝子改造
- 宇宙規模の陰謀
- 次回作に続きそうなヒーロースーツ
これらは「もっとプレデターをでかくしたい」という意図から来ていますが、説明しすぎると怪物の神秘性が薄れます。
ホラー的存在は、
- ある程度分からない部分を残す
- 見せるより匂わせる
方が強くなる、という教科書的な例です。
2. トーン設計は「最初の一行」で決めるべき
この作品は、
- シリアス寄りに振れば化けそうなアイデア
- コメディ寄りに振ればカルトになりそうな掛け合い
両方を持ちながら、中間で揺れてしまった。
クリエイター視点での学びとしては、
「この作品は観客にどういう顔で観られたいのか」
を早い段階で言語化しないと、編集段階で迷子になるという典型例です。
3. 「多様性」を扱うなら、テーマの一貫性が必須
ロリーの設定や、ルーニーズたちのPTSD、トラウマ、マイノリティ性は、本来なら深く掘れば非常に良いテーマになり得る要素です。
しかし本作ではギャグとシリアスが衝突し、
「笑っていいのか」「真面目に受け止めるべきなのか」が曖昧な場面が生まれました。
ここからの学びは明確です。
- 敏感なテーマを扱うなら、一歩突っ込んで丁寧に描く
- もしくはそもそも軽々しく持ち込まない
どちらかに振り切ることが重要。
それでも楽しめる人のための「視聴ガイド」
ここまでかなり容赦なく分析しましたが、「だからつまらない」と切り捨てたいわけではありません。
『ザ・プレデター』は、視点を変えれば十分「酒のつまみになるB級SFアクション」です。
おすすめ視聴モードとしては、
- シリーズ全部観てきた前提で「混沌を愛でる」
- シェーン・ブラック作品として、掛け合いと小ネタを楽しむ
- プレデターのデザイン・ガジェット進化だけに注目して観る
- 「もし自分が脚本担当ならどう直すか」を妄想しながら観る
この4つを意識すると、「ああ、ここ伸ばせば良作だったのに」というクリエイティブ脳が刺激されて、逆に楽しくなります。
この映画が好き(または気になる)あなたにおすすめの作品
最後に、『ザ・プレデター』からプレデター沼に落ちた、あるいは落ちかけているあなたへ、関連作と視聴ルートを提案します。
1. 『プレデター』(1987)
全ての原点にして“神話”の始まり。
- シンプルな設定
- 無駄のない演出
- 恐ろしく魅力的なプレデター像
『ザ・プレデター』を観た後に初代を見返すと、
「見せる情報量」「説明の少なさ」「恐怖の作り方」のレベル差がはっきり分かり、逆に学びになります。
2. 『プレデター2』
ロサンゼルスを狩場に変えた異色編。
プレデターの文化や複数体登場、エイリアン頭蓋骨カメオなど、世界観拡張の源泉が詰まっています。『ザ・プレデター』の「組織」「技術」「過去の遭遇」描写のルーツとして必見。
3. 『プレデターズ』
選ばれた殺し屋たちが異星ハンティングフィールドに落とされる、ゲーム感覚サバイバル。
- シリーズの“原点回帰”+“拡張”のバランスが優秀
- スーパープレデターなどの要素が『ザ・プレデター』にもつながる
「こういう路線で続けていたら良かったのでは」という一つの理想形です。
4. 『プレイ』(Prey)
18世紀の北米を舞台にした近年の傑作スピンオフ。
- シンプル
- 美しいロケーション
- 一対一の知能戦
『ザ・プレデター』の「盛りすぎ」と真逆の、「引き算でシリーズ価値を取り戻した」成功例として、セットで観ると非常に示唆深いです。
5. シェーン・ブラック作品
本作の会話劇が刺さったなら、彼本来のフィールドをぜひ。
- 『キスキス,バンバン』
- 『ナイスガイズ!』
- 『アイアンマン3』
『ザ・プレデター』で中途半端になってしまった持ち味が、ここでは全力で生きています。
まとめ:『ザ・プレデター』は“失敗作”ではなく“教材として優秀な問題児”
『ザ・プレデター』は、
- 看板シリーズを再起動しようとして迷走した一本
- だがキャストや演出、アイデアには光る部分も多い
- 編集、トーン、テーマの扱い、IPの膨らませ方など、学びだらけ
- プレデターというキャラクターの「扱い方」を考える上で避けて通れない事例
です。
完璧とは程遠い。
けれど、「シリーズを本気で愛している人ほど、どこがズレたのか語り合える映画」であり、そういう意味でフランチャイズにとっては重要な一枚でもあります。
もしまだ観ていないなら、
- まず初代『プレデター』
- 次に『プレデター2』『プレデターズ』
- その上で『ザ・プレデター』を「実験作」として味わう
- 最後に『Prey』で「こうすれば良い」を確認する
この順番がおすすめです。
そうやって並べていくと、あなたの中で「プレデターとは何者か」という像が、より立体的に立ち上がってくるはずです。