はじめに:ジャングルに落とされたのは「人類最悪オールスター」でした
2010年公開の『プレデターズ』(Predators)は、プレデターシリーズ第3作目にあたる作品です。監督はニムロッド・アーントル、製作・原案にロバート・ロドリゲス。主演はエイドリアン・ブロディ。
舞台は地球ではありません。
空から落とされてきたのは、「戦場」「犯罪」「殺し」に長けた人間たち。
- 傭兵
- スナイパー
- 麻薬カルテルの殺し屋
- 死刑囚
- ゲリラ兵
- ヤクザ
- 戦場医
彼らは、自分たちが“何者かに選ばれた獲物”であることに気づきます。
「最強クラスの捕食者(プレデター)」が、
「人類側のプレデター(=暴力のプロ)」を、
専用の狩場惑星にさらってきて、ゲームとして狩る。
という、タイトル通りのコンセプト。
この時点で発想がもう勝ちです。
本記事では、映画好き・エンタメ好き・アニメ好きの皆さんに向けて、
- 『プレデターズ』がシリーズの中で果たした“原点回帰+進化”の役割
- 見れば見るほど味が出るキャラクターたち
- 「スーパープレデター」「ゲームプレザーブ惑星」という世界観の広がり
- 制作の裏側とロドリゲス流のエッジ
- 現代目線での見どころと“学び”
- プレデター沼にハマる関連作ガイド
まで、読みながら次の段落に手が止まらなくなるテンションで解説していきます。
作品概要:これが『プレデターズ』
まずは基本情報を整理。
- 公開:2010年
- 監督:ニムロッド・アーントル
- 製作:ロバート・ロドリゲス ほか
- 出演:エイドリアン・ブロディ、アリシー・ブラガ、トファー・グレイス、ウォルトン・ゴギンズ、ローレンス・フィッシュバーン ほか
- 舞台設定:正体不明の惑星(“ゲームプレザーブ惑星”)
- ジャンル:SFアクション/サバイバルホラー
ストーリーは極めてシンプルです。
- 主人公ロイスが空中から落下 → パラシュートで着地
- 周囲にも同じように落とされた“戦闘のプロたち”が集結
- 自分たちが知らない星にいることを知る
- 森の中に仕掛け、死体、異様なトロフィーの数々
- そして、彼らを狩る“プレデター”たちの存在が明らかに
「ルール不明のデスゲームに放り込まれた強者たち」という構図は、
今のバトルロイヤル系ゲームやデスゲーム系アニメに慣れた世代にも刺さる設定です。
シリーズ内でのポジション:原点回帰とアップデートの絶妙なバランス
『プレデター2』や『AVP』で世界観が広がったあと、本作は意識的に
「1987年版『プレデター』の精神に帰りつつ、スケールと設定で勝負する」
方向を選んだ作品です。制作者ロバート・ロドリゲスも「原点の空気を取り戻したい」と語っています。
具体的にはこんなポイント。
- ジャングル(っぽい環境)でのステルスハント
- 見えない恐怖、追い詰められていく構図
- 少数精鋭チームの心理と駆け引き
- クライマックスは“頭脳と肉体での一騎打ち”
しかしそこに、
- 舞台は地球ではなく「狩り専用惑星」
- プレデター側にも“格差社会”(クラシック種とスーパープレデター)
- 人間側も「善人」ではなく「選ばれし危険人物」
を重ねることで、
「捕食者 vs 捕食者 vs 上位捕食者」
という三層構造のサバイバルドラマへと昇華させています。
魅力1:集められた人間たちが全員“ヤバい”
本作の隠れた主役は、「さらわれてきた人間たち」です。
- ロイス(エイドリアン・ブロディ):冷徹な傭兵。判断は正しいが人間味は薄め。
- イザベル:IDFスナイパー。前作ダッチ隊の出来事を知るキーパーソン。
- スタンズ:死刑囚。口悪いがどこか憎めない。
- ハンゾー:ヤクザ。寡黙、刀、後半の一騎打ちで存在感爆発。
- ニコライ、モンバサ、クッチーロ:各国の戦闘エリート。
- エドウィン:なぜか場違いな“医師”。最後に本性が明かされる不気味枠。
- ノーランド:この惑星で長く生き延びてきた元兵士(ローレンス・フィッシュバーン)
彼らは“プレデターの獲物”であると同時に、自分たち自身が人類社会における「プレデター」でもあります。
この二重構造がうまい。
観客は序盤、彼らを「生存者チーム」として応援しながらも、
「いや、お前らも十分モンスターだよな?」
と内心ツッコミを入れたくなる。
この軽い違和感が物語全体のトーンを支え、終盤のエドウィンの正体やロイスの選択に説得力を持たせています。
魅力2:スーパープレデターと“Yautja世界観”の進化
本作の看板要素の一つが、「スーパープレデター」と呼ばれる新たなハンターたち。
登場する主な個体は3体。
- ベルセルク・プレデター(Berserker):リーダー格。マスクの顎骨デザインが禍々しい。
- トラッカー・プレデター(Tracker):地獄犬“ハウンド”を使って獲物を追い立てるハンドラー。
- ファルコナー・プレデター(Falconer):ドローンのようなメカ鳥で索敵するインテリ系。
彼らは1987年版でおなじみのクラシックプレデターより一回り大きく凶悪で、
作中でも「小柄な旧型を縛り付けて晒す」という、種族間対立すら示唆する描写があります。
つまり、
プレデター社会にも「派閥」「進化系」「流儀の違い」がある
ことを、映像でドンと提示してくるわけです。
ゲームやアニメで“敵側にも組織や文化がある”設定が好きな人にはたまらないポイント。
ここからファンコミュニティでは「ヤウトジャ(Yautja)社会はどうなっているのか?」という考察が一気に加速しました。
魅力3:ロバート・ロドリゲス流の“ゲーム感覚サバイバル”
ロドリゲスは1990年代から温めていた企画をベースに、『プレデターズ』をプロデュースしています。
その影響は随所に見えます。
- 冒頭、説明ゼロでいきなり“空中スタート” → プレイヤー視点そのまま
- フィールド探索 → 罠発見 → モンスターエンカウント
- 中盤で「この星は狩り専用フィールド」と判明するメタな設定
- それぞれのキャラが“職業クラス”のように役割分担
完全に「高難度サバイバルゲーム」の構造です。
ゲームやバトルロイヤル系アニメに親しんでいる現代の視聴者からすると、
「このノリ、今こそちょうど良くない?」
と感じるはず。
公開当時より、むしろ今の方が時代が追いついたタイプの作品です。
魅力4:ハンゾーvsファルコナー、日本人オタク歓喜のチャンバラ
プレデターシリーズ随一の「お、分かってるね」と言いたくなる名シーンが、ハンゾーの決闘。
- 無言で仲間を先に行かせる
- 革靴を脱ぎ、刀を構え、風になびく草原で待つ
- 走り抜けざまの斬り合い
「侍 vs プレデター」という、誰もが一度は妄想したであろうカードを、
ちゃんと様式美を守って見せてくれます。
このシーンは日本の映画ファン・アニメファンにも強く刺さり、
- 時代劇
- 少年漫画的“一騎打ち”
- 武人としての誇り
といったモチーフが、プレデター世界とガッチリ噛み合う好例になりました。
「プレデターは強者に敬意を払う」というシリーズ共通の設定を、
最も美しく映像化した瞬間の一つと言っていいでしょう。
魅力5:ロイスという“細身の主人公”の説得力
「プレデターと戦う主人公=筋肉の化身」というイメージを、良い意味で裏切ったのがロイスです。
エイドリアン・ブロディは本作のために肉体改造をしていますが、それでもアーノルドのような超人マッチョではありません。制作陣も、
「リアルな傭兵は細身でタフな男だ」
という方向性を意図的に選択しています。
ロイスは、
- 感情移入しやすいヒーローではなく
- 冷徹で自己中心的で、だが状況判断は鋭く
- 最後に「獲物」から「狩る側」へとメンタルをスイッチする人物
として描かれます。
彼が泥だらけになりながらベルセルク・プレデターと対峙する終盤は、
「あの1987年版を意識しつつ、別タイプの“知能派サバイバル”として決着させた」
気持ち良い着地点です。
裏側エピソード:知るともっと楽しくなる制作の舞台裏
1. ロドリゲス脚本の復活劇
ロバート・ロドリゲスは1990年代半ば、『デスペラード』制作中に3作目用の『Predators』案を書いていましたが、当時は予算規模が大きすぎて実現せず。その“幻の企画”が、時を経て正式プロジェクトとして復活したのが本作です。
2. ロケ地は「地球の楽園」で“異星感”を出す
ジャングルシーンは主にハワイで撮影され、追加撮影やセットはテキサス・オースティンのトラブルメーカー・スタジオで行われました。自然光を活かした撮影によって、「地球だけど地球じゃない」微妙な違和感ある風景を作り出しています。
3. クラシックプレデターへのリスペクト
映画の中盤、捕らわれた旧型プレデターが登場します。
- デザインは1987年版へのオマージュ
- 新旧プレデターの対立を描くことで、ファンへのご褒美と世界観拡張を両立
この“一瞬で分かるファンサービス”が、『プレデターズ』を単なるリブートでなく「正史の延長」として位置付けています。
4. 興収と評価:静かに支持を積み上げた一作
興行的には製作費約4000万ドルに対して全世界1億2700万ドル超え。シリーズ復活作として一定の成功を収め、批評家からも「初代の雰囲気を取り戻した」「AVPより全然良い」という評価が目立ちました。
キャラクター描写の浅さを指摘する声もありますが、「ゲーム感覚サバイバル」「ハンティングコンセプト」「プレデター神話拡張」の3点で、ファンからの再評価が進んでいる作品です。
観る時に意識すると面白さが増す“学びポイント”
1. 「誰が本当のプレデターか?」というテーマ
この作品のキーは、タイトルの“s”です。
- 宇宙人のプレデターたち
- 人類側の殺しのプロたち
- そして環境そのもの(惑星)も獲物を選別する要素
全員が“捕食者”であり、同時に“より上位の捕食者の獲物”でもあります。
「強いから生き残るのではなく、“学習して適応したやつだけが生き残る”」
というメッセージが、作品全体にうっすら流れている。
デスゲーム系作品やバトルロイヤル物が好きな人なら、この構造は絶対好きです。
2. ホラー的な“間”とゲーム的な“情報開示”のバランス
- 正体をじわじわ見せる
- フィールド構造を少しずつ理解させる
- 途中で「先行プレイヤー(ノーランド)」を出して攻略情報を落とす
- 終盤で“ボス戦”へと集約
これは完全にゲームライクな設計ですが、ホラー映画の「じらし」とも共鳴しています。
勉強になるのは、
「観客に全部説明しないけど、理解するためのピースはきちんと配置する」
という脚本の設計。
クリエイター志望や物語好きは、そのバランス感を意識して観るとかなり面白いです。
3. 「シリーズのどこから観るか?」という楽しみ方
『プレデターズ』は、初代を押さえていれば単体でも楽しめます。
逆に、これを入口にしてから1987年版に戻ると、
- 同じ“ジャングル”でも構造が全然違う
- プレデターとの距離感、情報量、恐怖の演出がどう変化しているか
が比較できて、シリーズ鑑賞の解像度が一気に上がります。
この映画が好きならおすすめしたい作品たち
最後に、『プレデターズ』が刺さった人向けに関連作を紹介します。
1. 『プレデター』(1987)
原点にして頂点。
ジャングルでの“最強 vs 最強”を押さえてから『プレデターズ』を観ると、
- ロイスの立ち回り
- イザベルの会話(ダッチ隊の事件への言及)
- クラシックプレデター登場シーン
が何倍もニヤニヤできます。
2. 『プレデター2』
大都市ロサンゼルスを狩場に変えた問題児的続編。
シティ・ハンターとしてのプレデター像やエイリアン頭蓋骨のカットなど、『プレデターズ』以降の世界観につながる要素も多く、「フランチャイズの架け橋」として再評価必須。
3. 『Prey』
18世紀の北米を舞台に、若き女性ハンターとプレデターの戦いを描いた近年の傑作。
「時代も場所も変えても、プレデターコンセプトはここまで刺さる」という証明であり、『プレデターズ』が提示した“多様な狩場”という発想の最良の実例です。
4. デスゲーム&サバイバル系が好きなら
- 『キューブ』
- 『バトル・ロワイアル』
- 『GANTZ』
- 『スカイライン』や『ザ・ベイ』『バーニング・ブライト』など“閉じ込めサバイバル系”
「限られた空間+ルール不明+徐々に見える敵」という文法を理解すると、『プレデターズ』の設計もより立体的に見えてきます。
5. ロバート・ロドリゲス作品
- 『デスペラード』
- 『フロム・ダスク・ティル・ドーン』
- 『シン・シティ』
“B級魂と映像センスをハイレベルで混ぜるとこうなる”というお手本。
『プレデターズ』の「硬派だけどどこか遊んでいる感じ」は、ロドリゲス印を知っているとさらに楽しめます。
まとめ:『プレデターズ』は、シリーズを理解するうえで外せない“ゲーム盤”だ
『プレデターズ』は、
- 初代への敬意
- 世界観の拡張
- ゲーム的構造
- 上位種族と下位種族、捕食者同士の関係性
- ジャンル映画としての潔いテンポ
が絶妙に噛み合った、“静かに強い一作”です。
「プレデター=ジャングルでマッチョが叫ぶ映画でしょ?」という印象で止まっている人にこそ、ぜひ観てほしい。
そして観終わった頃には、たぶんこう思うはずです。
「続きが気になる。次はどの時代、どの場所で、どんな“プレデター”が狩られるんだ?」
その時点で、あなたも立派なプレデター沼の住人です。