【徹底レビュー】Netflix映画『ベッキー、キレる』感想・見どころ・考察|16歳少女が魅せる“怒り”と“救済”

 【徹底レビュー】Netflix映画『ベッキー、キレる』感想・見どころ・考察|16歳少女が魅せる“怒り”と“救済”


1. イントロダクション:『BECKY/ベッキー』からの続編、その衝撃度は?

2016年に公開された『BECKY/ベッキー』は、13歳の少女がネオナチ強盗団から生き延びるサバイバルスリラーとして大きな話題を呼んだ。ルル・ウィルソン演じるベッキーの鋭い目つきとサヴァイバル術は視聴者の記憶に深く刻まれ、その続編である『ベッキー、キレる』は公開前から期待と不安が入り混じっていた。

続編として超えてほしい壁

  前作の「13歳少女が無意識的に妖怪のように化け物じみた強さを発揮する」というインパクトは計り知れなかった。その続編で16歳となったベッキーは、より深いドラマと過激な復讐劇を見せると公言されていた。  

Netflixオリジナル配信ならではの自由度

  Netflix配信は映画会社のレーティングに縛られず、グロテスク描写や過激なアクションを惜しみなく描写可能だ。監督マット・エンジェルとスザンヌ・クートが手掛ける本作は、前作以上の“怒りと痛み”を視聴者に突きつける。

この記事では、ネタバレを最小限に抑えつつ、6000文字相当のボリュームで『ベッキー、キレる』の魅力を余すところなく解説する。

2. あらすじ(ネタバレなし)

16歳に成長したベッキー(ルル・ウィルソン)は、前作での壮絶な事件を乗り越え、優しい里親エレーナ(ジル・ラーソン)のもとで新たな生活を送っていた。だがある夜、エレーナの自宅に“ノーブルメン”と呼ばれる秘密結社が突入し、エレーナを殺害。唯一の家族だった愛犬ディエゴまで奪われてしまう。

激しい怒りと悲しみを抱えたベッキーは、かつて培ったサヴァイバル術を再び発揮し、ノーブルメンへの復讐を決意する。  

復讐の一歩一歩は、16歳という若い肉体と心を大きく蝕むと同時に、“守りたいもの”を失った少女の深い闇を露わにしていく――。


3. キャスト&スタッフ情報

– ベッキー(演:ルル・ウィルソン)

  前作からわずか3年で16歳に成長。復讐心という“守るべきもの”を胸に秘め、あらゆる死角を見逃さない目つきが鋭い。  

– エレーナ(演:ジル・ラーソン)

  ベッキーの里親で唯一の家族。温かい母性で彼女を包み込む存在だったが、事件の被害者となり、物語全体を動かす契機となる。  

– ノーブルメン(演:デニス・バースほか)

  仮面で顔を覆い、赤いマントを纏った秘密結社のメンバー。目的は謎に包まれており、不気味かつ知的な雰囲気が怖さを増幅する。  

– ディエゴ(演:実犬) 

  ベッキーの相棒であり心の支え。ディエゴを奪われたことで、彼女の怒りは頂点に達する。

スタッフ情報

– 監督・原案:マット・エンジェル、スザンヌ・クート  

– 脚本:マット・エンジェル  

– 製作総指揮:ジョーダン・イェール・レビン、ルル・ウィルソン  

– 撮影監督:ジュリア・スウェイン  

– 美術:アリー・レオーネ  

– 衣装デザイン:エレナ・ラーク  

– 編集:スティーブン・ボイヤー  

– 音楽:ニマ・ファクララ  


4. 見どころ①:16歳ベッキーの葛藤と成長ドラマ


1.1 “復讐者”としてのベッキー、16歳の矛盾

前作のエクストリームなサヴァイバル少女から、さらに年齢を重ねた今作のベッキーは、復讐そのものが生きる目標となっている。  

– 「16歳の少女が抱える葛藤」  

  十代半ばの少女が抱える思春期特有の“孤独感”と、“父親を、里親を守れなかった”という強い自責は常に隣り合わせ。単なる「冷徹な復讐鬼」ではなく、傷を抱えた“人間的弱さ”が描かれるからこそ、視聴者は彼女に共感し、応援したくなる。

– 「父の死」がもたらしたトラウマと決意

  前作のクライマックスで父親を失ったことは、心の奥底で癒えない傷として残っている。今作ではフラッシュバック演出が効果的に使われ、「あの夜、自分がもっと早く何かできたら」という後悔と怒りが、ベッキーの行動原理に深みを与えている。

– 「新たな家族=エレーナとの絆」

  エレーナはベッキーにとって“選んでくれた家族”として大きな存在だった。その愛情を信じ、守ろうとするベッキーの姿には、16歳の少女らしい情感が宿る。エレーナとの安らかな日々と、壊された日常のコントラストが、彼女の復讐心にさらなる重みを与える。


1.2 “戦う少女”から“守る少女”へ――二面性のドラマ  

– **「戦う理由が変わった」**  

  前作では生き延びるために戦ったが、今作では守りたいものを守るために戦う。16歳としての責任感と、守るべき相手を失った怒りが融合し、物語に新たな厚みをもたらしている。

– 「肉体的成長が演技に反映」

  ルル・ウィルソン自身がトレーニングを積み、筋力と機敏さを増したことで、素手やナイフ、銃を持った銃撃戦も説得力が増している。少年時代の無意識な逞しさではなく、自ら選んで鍛えた“戦闘技術”を見せるベッキーの姿が、リアルさを加速させている。


5. 見どころ②:ハードコアホラー×アクションの必然性


2.1 グロテスク描写が意味を持つ理由 

– 「暴力はベッキーの言葉」

  本作では血しぶきや切断シーンが前作よりもさらに過激に描かれる。しかしそれは単にショックを与えるためではなく、ベッキーの“怒り”と“悲しみ”を視覚的に表現する手段だ。  

– 「ノーブルメンという敵の“化け物性”」

  ノーブルメンの仮面やナイフの使い方は、どこか儀式的で異様。彼らが繰り返し襲いかかるのは、ベッキーの心を削るための嫌がらせであり、戦慄を誘う演出として機能している。


2.2 クライマックス「里親宅襲撃」シークエンスの構造 

– 「狭い空間の恐怖」

  ベッキーが里親宅の廊下や階段を駆け上がり、狭いリビングでノーブルメンと遭遇する。天井の高さが低く、床材が軋む音が張り詰めた緊張を演出。  

– 「音響デザインの妙」

  ドアが開く“ギィー”という金属音、床に落ちる足音、刃物が引き裂く“ジュッ”という鈍い音。これらが相対しながら、次第にノーブルメンのざわめきへとエスカレートし、「絶対に逃げられない」という“閉塞感”が視聴者を覆い尽くす。  

– 「ベッキーの覚醒」

  エレーナの悲鳴が響く瞬間、ベッキーの目つきが一変。カメラはスローモーションでベッキーの表情と刃物を映し出し、“少女から復讐者へ”の覚醒を強調する。観客はその一瞬で、彼女の怒りを“体感”する。


6. 見どころ③:映像美&サウンドが生む狂気の世界


3.1 ダークトーンの色彩設計 

– 「赤 vs. 青」

  暗がりの中、血のように鮮烈な赤いフィルターが差し込まれるシーンと、冷たい青い光が交互に使用される。赤はベッキーの“怒り”と“復讐の炎”を象徴し、青は“悲しみ”と“孤独”を映し出す。  

– 「コントラストを活かした陰影」  

  撮影監督ジュリア・スウェインは、暗部をさらに深く落としつつ、スポットライトのように顔や刃物だけに光を当てるスタイルを多用。観客の視線は自然に“重要なポイント”に誘導され、恐怖と緊張が増幅する。


3.2 音楽と効果音の緻密な組み合わせ 

– 「不協和音×ヘヴィリズム」

  ニマ・ファクララのスコアは、通常のホラー映画よりもノイジーなギターとドラムを全面に押し出す。ベッキーが心の底から怒りを爆発させる瞬間に、不協和音が急激に加速し、鼓膜を震わせるような重低音が視聴者の心拍数を上げる。  

– 「静→動のダイナミクス」  

  エレーナとの安らかなシーンではミニマルなピアノやシンセパッドが使われ、ベッキーの笑顔や優しい語りかけが沈んだ感情を強調。そこから一転、ノーブルメンが襲撃してくる瞬間に音が断絶し、“無音”のままベッキーの叫び声と刃物の金属音だけが響く。このコントラストが恐怖感を際立たせる。


7. 豆知識&制作舞台裏トリビア

1. 実在する里親モデルの声を反映 

   ジル・ラーソン演じるエレーナは、アメリカで実際に里親を務める女性たちのインタビューをもとに脚本にキャラクター像を反映。母性あふれる台詞回しや、普通の家庭のリビングセットはリアリティを追求している。

2. ルル・ウィルソンの10か月トレーニング  

   実際に階段昇降やナイフ扱いの基礎訓練、ウエイトトレーニングを行い、撮影前から“戦うための肉体”をつくりあげた。実際の銃器演習にも参加し、演技の説得力を高めている。

3. 「ノーブルメン」仮面デザインの秘密  

   衣装担当アリー・レオーネは、仮面に「バロック様式の仮面劇」と「近未来的マスク」を融合。表情が読み取れない不気味さが、観客の恐怖感を倍増させるよう意図された。

4. ロケ地はジョージア州アトランタ郊外 

   日本風のセットは、アトランタ郊外の古い一軒家を日本人スタッフと再現。床材や建具の質感、障子や襖のような仕切りが、 “まるで日本の田舎”を思わせる仕上がりに。

(Visited 1 times, 1 visits today)